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候補作の1つ『
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衣巻省三(35歳)の『けしかけられた男』も最終選考に残りました。彼も当時、当地(東京都大田区南馬込四丁目)に住んでいて、当作の舞台も当地です。スランプで書けない作家の「私」が、友人に「けしかけられる」、一風変わった小説です。北園克衛がモデルと思しき人物も出てきます。雑誌への発表が前年の昭和9年ですが、ちょうどその年、北園も当地に居を構えています。新しさが評価されましたが、川端はほめながらも、登場人物の娘に対する「独善的な見下しは反省の余地ある」と道徳的に批判しました。
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もう一人は、太宰 治(26歳)! 『逆行』(青空文庫→)です。太宰は、すでに3度の自殺未遂事件を起こしており(『逆行』では2度とある)、帝大仏文科卒業は絶望的。都新聞への入社試験にも落ち、薬物使用も習慣になりつつありました。『逆行』では、そのような自分を1年で3倍年をとった“老人”としてせせら笑うように書いています。そういった悲惨をいかにも軽やかにユーモラスに、一片の詩情と切なさをも漂わせて書けてしまう筆力はさすがです。
・・・ことし落第ときまった。それでも試験はうけるのである。甲斐ない努力の美しさ。われはその美に心ひかれた。・・・・・・(太宰 治『逆行』より)
生活の立て直しのためにも何が何でも受賞したかった太宰は、その後数年にわたって「芥川賞事件」といわれるものを起こします。川端の太宰評に「作者目下の生活に厭な雲ありて、才能の率直に発せざる
これは一見泥仕合のようで、意外に根源的な問題を含んでいます。今でも、「あの人は、〇〇だから」「あの人は、〇〇した人だから」と作品にも値打ちがないとかいう意見が時々出て、 しかもその意見が案外多くの人に支持され、時には、その作品や作家がいつの間にか世間から姿を消していることさえあるようです。人と作品は一体なのか、それとも、別個のもので、人がどんなであれ、作品自体の価値が減じるものではないのか? 興味深い問題です。
太宰は、翌昭和11年にも『晩年』が候補に挙がり、佐藤春夫からも知らせがあり今度こそはと舞い上がりますが、またもや落選。太宰は今度は佐藤への恨みをこめて『創生記』(青空文庫→)を書きました。川端の時は川端から詫びが入りますが、佐藤は『芥川賞の人々』(青空文庫→)でその内実を説明しています。
芥川賞は新進作家の生活の安定をはかるために、芥川龍之介を記念してその友人の菊池 寛が創設したもの。その作家の技量よりも「ノビしろの大きさ」や「話題性」が重視されるかな?
「話題性」といえば、昭和12年の第6回芥川賞は、中国の
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| 石川達三『蒼氓』(秋田魁新報社)。第一回芥川賞受賞作「蒼氓」のほか、移民船でのことを書いた「南洋航路」、ブラジルで働き始める「声無き民」も収録 | 朝比奈 秋『サンショウウオの四十九日』(新潮社)。現時点(令和6年8月時点)での最新芥川賞受賞作(第171回。もう一作あり)。一つの体を生きる姉妹の生活 |
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| 菊池 良『芥川賞ぜんぶ読む 〜84年間 180作品〜』(宝島社)。全作品にさっと目を通すことで浮かび上がる作家とその時代。この本でお好みの作家や作品を探すのも手。芥川賞受賞作なら間違いないかな? 著者はこの本を書くために会社をやめたそうだ | 『芥川賞候補傑作選(戦前・戦中編)』(春陽堂書店)。太宰 治「逆行」(第1回候補) 、矢田津世子「神楽坂」(第3回候補) 、織田作之助「俗臭」(第10回候補)、木山捷平「河骨」(第11回候補)、埴原一亟「下職人」(第13回候補) 、中島 敦「文字禍」(第15回候補)ほか |
■ 馬込文学マラソン:
・ 高見 順の『死の淵より』を読む→
・ 川端康成の『雪国』を読む→
・ 『北園克衛詩集』を読む→
■ 参考文献:
●「第1回~第20回」(芥川賞のすべて・のようなもの→) ●『昭和文学作家史(別冊 一億人の昭和史)』(毎日新聞社 昭和52年発行)P.220-224 ●『高見 順(人と作品)』(石光 葆 清水書院 昭和44年初版発行 昭和46年2刷参照) P.122-141 ●『芥川賞全集(一)』(文藝春秋 昭和57年発行)P.335-340 ●『大田文学地図』(染谷孝哉 蒼海出版 昭和46年発行)P.63 ●「芥川賞150回 ~先物買いか、取りこぼしか」(島田雅彦 )※「朝日新聞(朝刊)」(平成26年1月12日号)に掲載 ●『太宰 治(新潮日本文学アルバム)』(昭和58年発行)P.38-47
※当ページの最終修正年月日
2024.11.11