{column0}


(C) Designroom RUNE
総計- 本日- 昨日-

{column0}

“「兄」と「弟」(吉屋信子、『安宅家の人々』の連載を開始)*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吉屋信子 ※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用しました 出典:『吉屋信子(道の手帖)』(河出書房新社)*

 

昭和26年8月20日(1951年。 吉屋信子(55歳)の小説『安宅あたか家の人々』 の連載が、「毎日新聞」で始まりました。*

吉屋はこの小説で“理想の男性”を描こうとしました。*

「兄」と「弟」が出てきます。*

「兄」には知的障害があり、安宅家の執事の娘国子が彼の妻になって面倒を見ています。厚木飛行場近くで養豚場を営み、彼女が一切の切り盛りをしていました。「兄」の生活能力は充分でありませんでしたが、功利的観念と無縁で人をまっすぐ信じる純粋さが彼にはありました。*

かたや「弟」は、功利的観念のかたまりのような人です。*

事業に失敗した「弟」が安宅養豚場に居候するようになり、安宅家ににわかに波乱が生じてきます。功利第一の「弟」には、知的障害のある「兄」や、実家の執事の娘を尊重する気などさらさらありません。「弟」は「兄」をたぶらかして利用しようとするのでした。*

ここまで書けば、吉屋がどちらを“理想の男性”にしたかは、明らかでしょう。*

しかし、それを正面きって世に問うとなると、勇気が必要だったでしょう。吉屋の最大の理解者である秘書の門馬千代ですら、最初、この小説の構想を聞いて首を縦に振らなかったといいます。*

しかし、吉屋は、信念をもって書き続けました。当時の吉屋の日記には、「人生のたそがれによき仕事残すべし」とあります。*

そして、 「吉屋文学の最高傑作」(駒尺喜美)が生まれました。*

------------------------------------------------------

作家が「兄」と「弟」をどう描いたか追ってみるのも面白いかもしれません。*

石坂洋次郎

石坂洋次郎(58歳)は、小説『陽のあたる坂道』で、長男を医大に通う秀才で礼儀正しい青年に、次男を妹の家庭教師の女性の胸を「ぼくの憲法!」と言って触ってしまうような型やぶれな“セクハラ男”に描いています。でも、物語が進むうちに、「兄」の冷酷さと、「弟」の優しさが明らかになっていきます。*

この小説は、昭和33年、映画化され、石原裕次郎(23歳)が「弟」を演じて大ヒットしました。これを見れば、今でも多くの人が裕ちゃん、裕ちゃんと慕うのがよく分かるのでは? 原作者の石坂は、執筆途中から、石原のことをイメージして筆を運んだそうです。*

尾崎士郎

大正15年、尾侮m郎(28歳)は、小説『三等郵便局』に、自身の兄について書きました。彼の兄は、父亡き後、地元(愛知県横須賀村。現・西尾市)の郵便局長を引き継いでやっていましたが、8年前の大正7年(20歳)、ピストル自殺を遂げています。郵便局長を引き継いで2年後のことです。地元の新聞は、芸者遊びが好きな兄が公金を使い込み、それが発覚して自殺したとし、 「蕩児の自殺」 (「新愛知」)と書きました。しかし、公金の使い込みは父も行っており、兄はむしろそれを諌めていたのです。村一番の旦那だった父は責められず、兄だけがその責を負って死んでいったとは考えました。父への反感と、兄への共感があります。*

・・・兄よ、──あなたが深い土の底に埋めて置いた筈のあなたの犯罪は、あなたの死後二日を出でずして堀り返えされ、明るみへ、さらけ出されてしまったのだ。しかし、兄よ、それにもかかわらず、あなたの計画は見事に功を奏した。何故なら、誰もあなたの犯罪のために父を疑ぐる者は無いであろうから。あなたがあなたの犯罪について、何事の説明も残さないで、いや、少しの暗示すらも与えようとしないで死んでいったことのために、わたしたち一族の前途には再び明るい光が射しはじめたのである。・・・(尾侮m郎『三等郵便局』より)*

は幼い頃、文学好きのその兄の本箱に並んでいた本で、“文学”と出会っています。*

 

吉屋信子『安宅家の人々 (大衆文学館) 』。妻の国子は献身的だが世間体を気にして夫の行動を制限しようとした。一方譲二の妻の雅子は彼の秘めた可能性を知って一人の人間として対等に付き合おうとした。宗一は前者を母親のように慕い、後者に対しては一人の女性として好感を持ち始めるのだった・・・』 「安宅家の人々 [DVD]」。知的障害をもつ宗一を船越英二が好演。妻の国子を田中絹代、譲二の妻を音羽信子が演じる。原作の連載終了後、三ヶ月あまりで制作・公開された(昭和27年5月公開)
吉屋信子『安宅家の人々 (大衆文学館) 』。妻の国子は献身的だが世間体を気にして夫の行動を制限しようとした。一方譲二の妻の雅子は彼の秘めた可能性を知って一人の人間として対等に付き合おうとした。宗一は前者を母親のように慕い、後者に対しては一人の女性として好感を持ち始めるのだった・・・ 「安宅家の人々 [DVD]」。原作:吉屋信子。知的障害をもつ「兄」を船越英二が好演。妻の国子を田中絹代、譲二の妻を音羽信子が演じる。原作の連載終了後、三ヶ月あまりで制作・公開された(昭和27年5月公開)
石坂洋次郎 『陽のあたる坂道 (角川文庫)』* 映画 「陽のあたる坂道 [レンタル落ちDVD]」。*
石坂洋次郎 『陽のあたる坂道 (角川文庫)』* 映画 「陽のあたる坂道 [レンタル落ちDVD]」。*
『尾侮m郎全集〈第6巻〉』。「三等郵便局」所収*
尾侮m郎全集〈第6巻〉』。「三等郵便局」所収*

■ 馬込文学マラソン:
吉屋信子の 『花物語』 を読む→
石坂洋次郎の『海を見に行く』を読む→*
尾侮m郎の 『空想部落』 を読む→*

■ 参考文献:
・ 『吉屋信子 〜隠れフェミニスト〜』 
 (駒尺喜美 リブロポート 平成6年発行) P.195-226

・ 『安宅家の人々(講談社大衆文学館)』
 (吉屋信子 平成7年発行)P.7-96

・『評伝 尾侮m郎』(都築久義 ブラザー出版 昭和46年発行)
 P.39-42、P.75-78

■ 参考サイト:
ウィキペディア/安宅家の人々(平成27年6月10日更新版)→
ウィキペディア/陽のあたる坂道(平成29年4月22日更新版)→*

※当ページの最終修正年月日
2017.8.20*

この頁の頭に戻る