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いかにして有罪となったか(平成18年9月13日、植草一秀氏、事件に巻き込まれる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成18年9月13日(2006年。 、当地(東京都大田区・品川区)を走る電車(京急品川駅map→午後10時8分発、京急蒲田駅map→に向かう下り快速)が品川駅を出て1~2分たった頃、肩が触れるほどは混んでいない3両目の車両で、自称女子高生が甲高い声を上げて右斜めに移動して後ろを振り返りました。

その自称女子高生の近くに、JR大崎駅map→近くの中華料理店「謝朋殿しゃほうでん 」でしこたま飲んでぐったりしていた経済学者の植草秀一氏がいました。顧問を務める会社の会合で紹興酒を5cmほどのグラスで20-30杯以上も飲酒したとのこと。氏は左手に傘、右肩に4kgほどのバックを下げていたようで、ドアに向かって半眠りの状態でした。

女性の声があった直後、氏は2人(?)の男に取り押さえられて蒲田駅の事務室に連れていかれます。氏は、女性の声には気づいていましたが、何があったのかも分からず、「2年前(平成16年)の苦い経験」(いわゆる「手鏡事件」)があったので、まためられるのではと不安を感じ、女性に会わせてくれとさかんに頼みますがかないませんでした。氏を取り押さえた男(たち)は、氏を事務室の駅員に引き渡した後、いつの間にかいなくなり、その後は姿を見せなかったそうです(裁判でも証人にならなかったようだ。検察官開示記録によると、男たちは事件を目撃していなかった!?)。

蒲田駅事務室に着くと、前の事件で「警察では真実が真実として扱われない」ことを痛感した氏は、「土石流のような報道」でまた大きな被害を受けるだろうと絶望、ネクタイで自死を図りますが、駅員が阻止。その後、危惧したように警察官に引き渡されました。

警察で氏は一貫して、

「痴漢をしたという認識はない」

と言い続けましたが(氏が控えめに言ったのは、電車の揺れで女性にぶつかり誤解を受けるようなことはあったかもしれないと思ったから)、書類には

「痴漢をやったことは覚えていない」

と記載されます。言葉は似ても白が黒になるほどの違いです。また、「痴漢を認めたことは絶対ない」と言うと、「警察のでっちあげだと言っている」という話にすり替わってマスコミにリークされました。その後マスコミがどんなにヒドい報道をしたか記憶されている方も多いことでしょう。

3日後(9月16日)、被疑内容を伝えられ、氏は驚愕します。「女子高生の臀部をスカートの上から、さらに下着の上から手指で撫でるなどした」というとうていあり得ないものだったからです。氏は確信をもって否定、「被害者とされる人が本当のことを言っているなら、絶対に人違いであるから、その可能性を徹底的に調べて欲しい」と言い続けました。

10月4日に起訴され、過酷な取り調べが始まりました。以下は、植草氏の文章です。

・・・警察署を朝7時半に護送車に乗せられて出発し、検察庁の同行室に連行され、激しい取り調べを受けて、夕刻6時ころに警察署に戻る。20日余りの取り調べ期間に私は6度連行された。縄手錠での検察庁への「押送おうぎょう 」、「逆送」は一種の「拷問」だ。「百聞は一見に かず」だ。映画(周防正之すおう・まさゆき 監督映画「それでもボクはやってない」平成19年公開)を見る意味がある。奴隷船のような光景が広がる。
 取り調べ検事は「否認を続ければ裁判で私生活を攻撃して家族を徹底的に苦しめてやる」との発言を繰り返した。学校等での「いじめ」を意図的に誘発するとも受け取れる発言だ。私はこれを「脅迫」だと感じた。この発言が私を苦しめ続けた。
 日本国憲法第三十六条は「公務員による拷問は絶対にこれを禁ずる」とし、第三十八条は「脅迫による自白は、これを証拠とすることができない」と規定している。
 取り調べをした警察は、「否認を続ければ長期の勾留となり小菅こすげ〔東京拘置所のこと〕に移送される」、「否認して裁判になれば必ずマスコミの餌食になる」と繰り返した。私に「こんな所にいないですぐに仕事をして欲しいんだ」、「日本はいま大事な時期だから、こんなことに時間をかけてはだめだ。大事な仕事を早くして欲しいんですよ。」と繰り返し、犯罪を認めることを迫り続けた。・・・(植草一秀『知られざる真実 ~勾留地にて~』より)

そして、立件されて裁判。検察側証人(科捜研の研究員)が氏の指から見つかった繊維片が被害女性のスカートの繊維と「類似」していると証言、検察は懲役6ヶ月を求刑します。その後、植草氏側は独自に大学教授に委嘱して、その繊維片が蒲田駅の駅員の制服の繊維と「極めて類似」しているとの鑑定結果を得ます。蒲田駅の事務室で自死しようとしたり、女性と話をさせてくれと外に出ようとしたりした際、氏は駅員と揉み合っていたのです。しかし、なぜか、後者の鑑定結果は裁判で却下されました。

そして、高裁まで争われ、平成21年、最高裁が植草氏の上告を棄却して、懲役4ヶ月の実刑が確定します。

植草氏は経済学者・経済評論家として、大学(早稲田大学大学院教授)、テレビなどでも大活躍でした。鋭い舌鋒で政権批判もよくした植草氏の口を封じたい勢力の関与もあったのでしょうか?

植草氏は以前にも2度嵌められています。

平成10年、神奈川県平塚での講演を終えて東海道線の上り列車に乗車中、電車が大きく揺れた時、荷物を抱えている手がボックス席向かいの女性に一瞬触れただけで、女性に触ったという上申書を書かされています。「触ったと書かなければ逮捕する」「認めなければ逮捕する。泊まっていけ」と大声で怒鳴られ、すでにテレビ番組にも出演していた氏は逮捕というスキャンダルを恐れ、脅しに屈してしまいました。

2度目は平成16年のいわゆる「手鏡事件」で、氏は品川駅でエレベーターに乗っていただけで、有罪となりました。

警察官や検事は無実の人を検挙・拷問・立件することで心が痛むということはないのでしょうか? 裁判官は 検察に逆らわないのが処世術なのでしょうか? マスコミはスキャンダラスに報道し売上や視聴率が上がればいいのでしょうか? 無実の罪を着せられた人の苦悩は計り知れません。どれだけ罰金を払わされたとか、どれだけ刑に服したとかいうのは瑣末なことで、有罪になったことで社会的に葬られたり、家族や知人の誤解を受け続け関係が断絶したり、その後の人生がメチャクチャになる可能の方が重大です。日本では、刑事裁判における有罪率が異常に高く99.9%だそうです。つまりは起訴されたらほぼ「お終い」。そんななら、なんのための裁判でしょう?

不適切な取り調べは植草氏の件に限らず、かなり常態化しているようです(平成12年の「下高井戸放火事件」などなど)。早急なる取り調べの完全可視化が必要です。平成28年5月、身体拘束下の被疑者の取り調べの全課程の録画を義務づける「改正刑事訴訟法」が成立しましたが、裁判員裁判対象事件・検察独自捜査事件に限られ、全事件の3%にも満たない不完全なもののようです。この問題について、平成27年3月26日の参議院内閣委員会で、山本太郎参議院議員が、山谷えり子・内閣府特命担当大臣(防災)、政府参考人(三浦正充氏、上冨敏伸氏)に切り込みました(YouTube→ 書き起こし→)。

植草一秀 『知られざる真実 〜勾留地にて〜』(名月堂書店)。氏が被った「3つの冤罪事件」に言及 今村 核『冤罪と裁判 (講談社現代新書) 』。なぜ、冤罪事件が起きるのか? 日本の刑事裁判の後進性
植草一秀 『知られざる真実 〜勾留地にて〜』(名月堂書店)。氏が被った「3つの冤罪事件」に言及 今村 核『冤罪と裁判 (講談社現代新書) 』。なぜ、冤罪事件が起きるのか? 日本の刑事裁判の後進性
菅野良司 『冤罪の戦後史 〜刑事裁判の現風景を歩く〜』(岩波書店) 「それでもボクはやってない 」。監督・脚本:周防正行、出演:加瀬 亮、瀬戸朝香、山本耕史、役所広司ほか
菅野良司『冤罪の戦後史 〜刑事裁判の現風景を歩く〜』(岩波書店) 「それでもボクはやってない 」。監督・脚本:周防正行、出演:加瀬 亮、瀬戸朝香、山本耕史、役所広司ほか

■ 参考文献:
●『知られざる真実 ~勾留地にて~』(植草一秀 名月堂書店 平成19年初版発行 平成21年6刷参照)P.209-269 ●『植草事件の真実 ~ひとりの人生を抹殺しようとするこれだけの力~』(編著:植草一秀事件を検証する会 ナビ出版 平成19年発行)P.3-15 ●「憲法改正 自民案の36条から、拷問禁止の「絶対」が消える?【争点:憲法改正】」(千代明弘)THE HUFFINGTON POST→ ●「取調べの可視化」(日本弁護士連合会/取調べの可視化本部)site→

※当ページの最終修正年月日
2022.9.14

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