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煙の仲(戦中、添田知道と山本周五郎、“タバコ”製造に励む)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

芥川龍之介くわ えタバコ(自殺した昭和2年の写真)。動画も残っている(YouTube→) ※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典:『昭和文学作家史(別冊1億人の昭和史)』(毎日新聞社)

添田知道 山本周五郎

昭和20年3月26日(1945年。 づけの添田知道(42歳)の日記に、戦争末期、愛煙家たちがどのように“タバコ”を入手したかが書かれています。

・・・煙草たばこのない三日目。 昨日は市太郎が一本くれた、それだけ。 今日は市太郎もなし、・・・(中略)・・・きく、紅茶をあげませうといふ。 昨夜、市太郎が試みて、甘いといったさうな。 缶から出す紅茶、あたらめるのに勿体もったい ない。 縁側の茶がら干し、それを交ぜろといふ。ちょっと火が きにくいが、煙が出る、甘い。 これはいゝぞ。 ほうよく、キンシなどよりよっぽどうまい。茶がらだけでやってみる。 やはり、同じやうだ。光ぐらゐだ。甘さがあって中々よい。いや、これならくよくよすることはない。茶がらならちっとやそっとでは喫ひ切れやせんぞ。ざまアみろ。どうせ 虎杖いたどり の葉なら、この方が遥かに上等なものだ。しかもこれ 廃物起酌はいぶつきしゃくである。
 郵便を出しながら、山本へ、右を報せによる。・・・(中略)・・・喫茶のこと、教へる。なるほど、といふ彼は今朝からプラタナの葉を用ひてゐたのだといふ。二人で、すぱすぱとやって、別れる。わざわざありがとう、といふ。 茶がらをおいて来た。・・・(添田知道『空襲下日記』より)

「市太郎」は添田の義弟で、「ほうよく(鵬翼)」「キンシ(金鵄)」 「光」 はタバコの銘柄でしょう。 「山本」 は山本周五郎(41歳)で、「きく」は添田の妻。「廃物起酌」は廃仏毀釈を添田がもじったのでしょう。廃品利用といった意味でしょう。

紅茶、茶がら、イタドリやプラタナ(プラタナス?)の葉などがタバコの代用になるのですね !? 案外、“タバコ”って煙が出るものならなんでも良かったりして???

芥川龍之介

横須賀の海軍機関学校の教師になる1〜2ヶ月前、芥川龍之介(24歳)が『煙草と悪魔』青空文庫→という短編小説を書いています。悪魔が日本へタバコ(煙草)をもたらしたという伝説(そういった伝説が実際にあるかは分からない)を元にした作品です。従者に化けてフランシスコ・ザビエルに随行し来日した悪魔が、仕事がなく(日本にはキリスト教信者がまだ少なく、信者を たぶら かすという悪魔の仕事も少なかった)、暇つぶしに煙草の栽培を始めたという話です。物事には裏面があって、神の伝来は、同時に、悪魔の伝来でもあったという洞察がこの小説の面白みでしょう。芥川自身愛煙家でしたが(このページ最上部の写真を参照のこと)、タバコと悪魔を結びつけることで、タバコの二面性(良きものでもあり、悪しきものでもある)をも示唆しているようです。

『煙草と悪魔』にも書かれているように、タバコの伝来の時期は文献によってまちまちのようですが、1550年前後に、ポルトガル人かスペイン人が伝えたというのは確かなのでしょう。ポルトガル人の種子島漂着(鉄砲伝来)が1543年で、スペイン人ザビエルの来日が6年後の1549年です。

タバコの原産地は、南米のボリビアとアルゼンチンの国境周辺であり、ポルトガルやスペインなどの西ヨーロッパへの伝来もさほど前ではなく、1500年代に入ってからです。1492年のコロンブスのサンサルバドル島到達に始まる西ヨーロッパの中南米侵略の歴史の中で、タバコがヨーロッパに広まっていったようです。

三島由紀夫

三島由紀夫は『煙草』Amazon→川端康成に認められて文壇に登場しました。感覚と信念のままに生きようとしていた少年の静謐な心に、上級生から勧められた禁断の1本の煙草を喫うことで、小さくない波乱が生じます。タバコが「少年が青年になるための通過儀礼」の小道具だった時代のことを思い出しました。

それにしても、昔の作家の写真には、タバコを手にしたもの、くわえタバコのものがやたら多いです。「人間味」「生活感」「変化」を出すために、少しでも喫う人にはカメラマンが持たせたのでしょう。現在は、健康面と他害性から、タバコに対する世間一般の好感度はガタ落ちですが、昭和までは、成人男性なら、喫える方が「いい感じ」だったのでしょう。

菊池 寛のタバコ 岩田専太郎(左)と吉川英治(右)のタバコ。2人は新聞小説の名コンビ
菊池 寛のタバコ 岩田専太郎(左)と吉川英治(右)のタバコ。2人は新聞小説の名コンビ
大佛次郎のタバコ 夢野久作のタバコ。な、長っ!
大佛次郎のタバコ 夢野久作のタバコ。な、長っ!
太宰 治のタバコ 織田作之助のタバコ
太宰 治のタバコ  織田作之助のタバコ

※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典は全て『昭和文学作家史(別冊1億人の昭和史)』(毎日新聞社)

当地(東京都大田区)の衣巻省三の家で、尾﨑士郎が火のついたタバコを梶井基次郎に投げつけたというのは、実話なんでしょうか?

マッチ擦るつかのま海に霧ふかし
身捨つるほどの祖国はありや(寺山修司)

金子正次が脚本を書き主演した「竜二」Amazon→の最後のタバコの場面を忘れ得ない人も多いことでしょう。ドラマ「北の国から」でも、印象的なタバコの場面がたくさんありました。母親が密かに喫うタバコ、優しい若い女性の先生が一人になった時に喫うタバコ、本当のことを打ち明ける時のタバコなどなど。

「火を貸す」という文化もありました。

1930年代、米国中西部で強盗と殺人を繰り返したポニーとクライドがもてはやされたのは、押収物にボニー(女性)が葉巻を咥える写真Photo→があり、それが報道されたからのようです。タバコを咥える女性はいてもさすがに葉巻を咥える女性はまだいなかったようで。

片野田耕太『本当のたばこの話をしよう 〜毒なのか薬なのか〜』(日本評論社)。 「特集=煙草異論(ユリイカ2003年10月号)」(青土社)
片野田耕太『本当のたばこの話をしよう 〜毒なのか薬なのか〜』(日本評論社) 「特集=煙草異論(ユリイカ2003年10月号)」(青土社)
『煙管・パイプ・手巻きたばこマニュアル』(スタジオタッククリエイティブ) スモーク」。原作・脚本:ポール・オースター、監督:ウェイン・ワン
『煙管・パイプ・手巻きたばこマニュアル』(スタジオタッククリエイティブ) 『スモーク」。原作・脚本:ポール・オースター、監督:ウェイン・ワン

■ 馬込文学マラソン:
芥川龍之介の『魔術』を読む→
山本周五郎の『樅ノ木は残った』を読む→
三島由紀夫の『豊饒の海』を読む→
尾﨑士郎の『空想部落』を読む→

■ 参考文献:
●『空襲下日記』(添田知道 刀水とうすい 書房 昭和59年発行)P.109 、P.142-145、P.332 ●『添田唖蝉坊知道 ~演歌二代風狂伝~』(木村聖哉 リブロポート 昭和62年発行)P.255 ●『山本周五郎 馬込時代』(木村久邇典 福武書店 昭和58年発行)P.87、P.227-243 ●『山本周五郎(新潮日本文学アルバム)』(昭和61年初版発行 昭和61年発行2刷)P.42、P.45 ●『山本周五郎 戦中日記』(角川春樹事務所 平成23年発行)P.62  ●「木村聖哉「戦時下の山本周五郎」への反論 ~作家像追究の視点をめぐって〜」木村久邇典 ※「青山学院女子短期大学紀要」(平成元年発行)に収録(CiNii→) ●『大田区史年表』(監修:新倉善之 東京都大田区 昭和54年発行)P.195、P.197 ●「煙草」※『山川 日本史小辞典(改定新版)』に収録(コトバンク→

※当ページの最終修正年月日
2025.3.22

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