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昭和13年10月22日(1938年。
火野 盧溝橋事件の後、日本陸軍は軍事行動を拡大させました。中国国民党政府の首都・南京を占領し、同年10月には、広東と武漢も占領、火野らもある任務をおび、広東入りしたのです。 火野らは住居を数回変えた後、翌月(11月)、広東省光州市の
火野はその時のことを、翌年の昭和14年、『怪談宋公館』に書きました。作中、火野は、「これは決して作りばなしではなく、 「宋公館」の「幽霊」の特徴は、「場所付き」(その場所に出る)で、そこで起居するほとんど全ての人の前に現れ、様々な形で現れること。猿のような鳴き声で近づいて来てアザができるほどつねる顎がなく黒い服の「幽霊」だったり、20歳位のチャイナドレスの子どもを負ぶった“色っぽい”「幽霊」だったり、体を左右に振って近づいてくるのっぺらぼうの黒い影のような「幽霊」だったり・・・。最初、使用人の前に現れて、彼らが「幽霊」が出るので仕事を辞めたいと申し出たとき、火野らは彼らが待遇に不満なのだろうと勘ぐりましたが、次には、金子軍曹の前にも現れ、そして、とうとう火野の前にも現れます。 ・・・まもなく、私は誰かに抱きすくめられていることを知ったのである。私は私の頬にさらさらと髪の毛がさわるのを感じた。・・・(中略)・・・私にはそれが二十四五歳位の若い男であるということが感じられた。私は力まかせに
『怪談宋公館』の「幽霊」たちは、寝ている時に現れ、見たら身動きが出来なくなるという点も共通しており、一種の「金縛り」のようでもありますが、それにしても生々しいです。『日本怪奇小説傑作集2(創元推理文庫)』(Amazon→)に収録されてますので、詳しくは実作にあたってください。 作家は基本「正直者」でしょうし、表現力もあるので、彼らの「幽霊」譚にはそそられます。 当地(東京都大田区)にも住んだシナリオライターの北村小松の不思議な体験は、母親の容態が急変した時刻に、茶の間のゼンマイ仕掛けの柱時計の針がゼンマイが解けていないのに止まったこと。それだけなら「偶然」ですませるところですが、腕時計の針もその時刻で止まっていたので、偶然ではなく「予告」だったのではとの思いに囚われたとのこと。 やはり当地(東京都大田区)に住んだ文筆家の矢田挿雲の体験も、「偶然」ですますことができない重みがあります。当時勤めていた報知新聞社に従兄弟が訪ねて来ていろいろ話を交わし、一緒に夕食をと外に出ますが、その後、彼がすっといなくなったという話です。そして、なんと、その従兄弟はその時点でもう亡くなっていたことが分かります。矢田はさすが新聞記者だけあって、従兄弟の妹から彼が亡くなった時のことなどを詳しく聞き出し、自分が彼(従兄弟の「幽霊」)と交わした話などとも付き合わせて考察、その結果、彼と会ったことと、彼がその8ケ月前に死んだことが確かなことと確信するに至りました。 この手の話はけっこうあって、佐藤春夫の体験は、ある日「きっと来ますからね」と言って、その後急逝した弟子がいて、その日のその時刻に、佐藤の2階の彼の書斎で一人でテレビを見ていた孫娘が血相を変えて階下に降りてきて「誰か来た」と訴えたというもの。牧野信一の亡くなった時刻に、榊山 潤の家の玄関で「こんばんは」という確かな声を榊山の妻が聞いています。敗戦間際、片山広子が見た亡き息子の姿も、夢というにはあまりにリアルでした。 高村光太郎が死んだ頃、パリにいた彫刻家の高田 上で紹介した「宋公館」の幽霊も「場所付き」でなく実は「人に付いた」もので、いわくある「宋公館」に起居した者たちの思念、例えば、他国を侵略する者の後ろめたさ、その侵略者に仕える者の後ろめたさ、様々な噂話などが彼らの頭にあって、それらが「幽霊」を生んだと考えられます。また、一人が「幽霊」を見ると、その「幽霊を見た」という思念が、新たな「幽霊」を誘き寄せたことでしょう。しばらくすると「宋公館」の幽霊は、日本にも出没。『怪談宋公館』がラジオ放送され、日本本土の人も広く知るところとなったからと思われます。 この「幽霊」目撃の連鎖は、一時期、世界中で頻繁に目撃されたUFOにも似ています。 「幽霊」を体験した作家たちが作り話をしたとは思えませんが、現在では、「幽霊」も、無意識の働き、夢の作用、誰にもある脳の働きのバグ、共時性(シンクロニシティー)、共同幻想、相対性理論などで、ある程度、説明できるかもしれません。 何やら霊的っぽいことを言って人に影響を及ぼそうとする芸能人や、イカサマ宗教者、イカサマ占い師が 私ごとですが、一番大変だった頃、一人暮らしていたアパートの台所に、死んだはずの母が立ったことがあります。「だいじょうぶ?」とかけてきた声もはっきりしていました。生前、母が、病院に入る前、一度見ておきたいと私のアパートに来たのは、場所を確かめるためだったのでしょう。母のこの「幽霊」は信じることにしています。
■ 馬込文学マラソン: ■ 参考文献: ※当ページの最終修正年月日 |