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昭和29年6月18日(1954年。 山本周五郎(51歳)が、『樅ノ木は残った』(Amazon→)の新聞連載を1ヶ月後にひかえ、小説の舞台となる宮城県下の取材に出かけました。
甲斐の居城跡(「船岡城址公園」)を取材した周五郎は、そこに群生する「樅ノ木」の静かな佇まいから、甲斐を造形していきます。
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| 船岡駅(宮城県柴田郡柴田町船岡中央一丁目1-1 Map→)から見える
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樅は、松科の常緑高木。高さ50mにもなる。「縦」にそびえるところから「樅」の字体になったと推測されている。松かさ(果実)も縦に直立してつく(Photo→) |
『樅ノ木は残った』
に出てくる
緊張する姉弟に優しく声をかけたあと、甲斐は、庭の一本の樅を指して語ります。甲斐が船岡から持ってきた思い入れのある木です。
・・・「私はあの木が好きだ」と甲斐は言った、 「船岡にはあの木がたくさんある、樅だけで林になっている
「木がものを言いますの」
「宇乃は知らないのか」宇乃は甲斐を見た、甲斐はその眼を見返しながら言った、「木はものを言うさ、木でも、石でも、こういう柱だの壁だの、屋根の
宇乃は「はい」と
「ひとりだけ、見も知らぬ土地へ移されて来て、まわりには助けてくれる者もない、それでもしゃんとして、風や雨や、雪や霜にもくじけずに、ひとりでしっかりと生きている、宇乃にはそれがわかるね」
「はい─」
「宇乃にはわかる」と甲斐は言った。彼はふと遠いどこかを見るような眼つきをした。
宇乃は思った。おじさまは
「おじさま」と宇乃が言った、「宇乃はいつか、お国へつれていっていただけますのね」・・・(山本周五郎『樅ノ木は残った』より)
この箇所は、物語最後のクライマックスとも呼応する重要な箇所です。
ところで、上の文の「みんな古くなるとものを言う」とはどういうことでしょう?
その「モノ」を見ると、その「モノ」と共にあった時代のあれやこれやが蘇ってくることではないでしょうか。その頃共にあった人々の顔や家の匂い、道の
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悲惨な精神状態にあった若い頃の志賀直哉は、「ものを言う」古いものに接することで、精神の平衡を取り戻していったようです。大正3年頃(31歳頃)の一時期と、大正12年(40歳)から昭和13年(55歳)までの15年間、京都・奈良あたりを転々としています。以下は、志賀の半自叙伝『暗夜行路』の一節です。
・・・大森の生活は予期に反し、全く失敗に終つた。彼は恐しく惨めな気持に絶えず追ひつめられ、追ひつめられ、そして安々とは息もつけない心の状態で来たが、
古い土地、古い寺、古い美術、それらに接する事が、知らず彼をその時代まで連れて行つてくれた。しかもそれらの刺激が今までのそれと全く異つてゐた。それが現在の彼には
彼は
志賀の15年間の京都・奈良時代、滝井孝作、網野 菊、武者小路実篤、小林秀雄、尾崎一雄らもその近辺に住みました。
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片山広子に次の一首があります。75歳の片山は浜田山(東京都世田谷区 Map→)で、一人暮らしていました。
人多く住みける家をおもひいづ
夫に先立たれ、長女も嫁ぎ、長男にも先立たれて、以後は一人で暮らしていました。何枚もの皿に目がとまり、昔のにぎやかだった時代が懐かしく思い出され、かつ、胸が締めつけられるようでもあったのでしょう。
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映画「小さなおうち」(原作:中島京子、監督:山田洋次、出演:松たか子、黒木
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| 草川啓三『森の巨人たち 〜巨樹と出会う〜(近畿とその周辺の山)』(ナカニシヤ出版) | 川上弘美『古道具 中野商店 (新潮文庫) 』 |
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| 和辻哲郎『古寺巡礼 (岩波文庫)』 | 「小さいおうち」(松竹)。その家は当地(東京都大田区雪ヶ谷)にある |
■ 馬込文学マラソン:
・ 山本周五郎の『樅ノ木は残った』を読む→
・ 志賀直哉の『暗夜行路』を読む→
・ 片山広子の『翡翠』を読む→
■ 参考文献:
●『樅ノ木は残った(カラー版国民の文学11)』(山本周五郎 河出書房 昭和43年発行) P.35-38 ●「『樅ノ木は残った』の作者をめぐって」(大池唯雄) ※ 『樅ノ木は残った(山本周五郎小説全集8)』 付録「山本周五郎ノート<1>」に収録 ●『山本周五郎(新潮日本文学アルバム)』(昭和59年発行)P.80-85 ●「樅」※「デジタル大辞泉」(小学館)に収録(コトバンク→) ●『昭和文学作家史(別冊一億人の昭和史)』(毎日新聞社 昭和52年発行)P.317 ●『志賀直哉(上)(岩波新書)』(本多秋五 平成2年発行)P.173-177 ●「(志賀直哉)略年譜」(
※当ページの最終修正年月日
2024.6.22