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自薦の一作(昭和35年10月18日、室生犀星、軽井沢に自作の詩碑を立てる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽井沢の矢ヶ崎川のほとりに、室生犀星が自身でたてた詩碑。Photo1、詩碑は苔むした石垣を背にある→ Photo2、詩碑への道。左手が矢ヶ崎川→

室生犀星

昭和35年10月18日(1960年。 室生犀星(71歳)が、軽井沢の矢ヶ崎川のほとり(長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢821 Map→)に自作の詩の石碑を建てました。犀星はちょうど1年前(昭和34年10月18日)、妻・とみ子を亡くしています。軽井沢は2人の思い出の地でした。

自らが選んだ 詩ですから、思い入れのある一篇なのでしょう。

思い通りにならないことでうめ いてばかりの自分だから、冷え冷えと緊張した、それでも、キラリと光る氷を愛するのだと。たしかに、室生文学の神髄を感じます。

宇野千代

宇野千代は、 『色ざんげ』を「私の書いたものの中で、一番面白い」と言っています。

昭和4年3月30日に起きた東郷青児(33歳)とお茶の水出の海軍少将の令嬢とのガス心中未遂事件を題材にした小説です。事件の現場は当地の大井町鹿島谷3138(現・東京都品川区大井六丁目。小説では東京都大田区の大森になっている)。

事件があった頃、 宇野は『罌粟けし はなぜ紅い』という小説を書いていて、心中時の緊迫した場面を書くのに手こずっていました。宇野は、自殺未遂の当事者に直接話を聞くことを思いつきます。大胆にも、宇野は、東郷に電話しました。そして、東郷から心中時の状況や心情を聞いて『罌粟はなぜ紅い』を書きつなぎ、また、それとは別に、東郷の心中未遂事件をメインの題材にして『色ざんげ』も書きあげたようなのです。小説ができた経緯からして興味深いですね。

三島由紀夫

犀星の詩碑建立と同じ年(昭和35年)、三島由紀夫(35歳)が小説『憂国』を脱稿しています。三島はこの作品を「よいところ悪いところすべてを凝縮したエキスのやうな小説」と自ら評し、自分の作品を1作だけ読むなら『憂国』がいいと言っています。

『憂国』は、新婚者であることを理由に二・二六の決起から外された男の末路を、耽美的に描いたものです。三島の「二・二六 3部作」の一つ三島も結婚したばかりでした(2年前の昭和33年(33歳))。翌昭和34年(34歳)、当地(東京都大田区南馬込四丁目32-8 Map→)に新居を構え、同年、長女も生まれました。『憂国』には、「家族への情に流されて、“本懐”を遂げられなくなるのでは」といった作者の不安が投影されているのかもしれません。三島は、登場人物に決然とした行動を取らせます。

井上靖

井上 靖が、「運よく私の作品で後世に残るものがあるとすれば、それは『しろばんば 』です」と書いています。伊豆の湯ヶ島で、曾祖父のめかけの「おぬい婆さん」と過ごした幼い日々を描いた自伝小説です。主人公の洪作こうさく少年は、優しい「おぬい婆さん」が村人や親族から疎んじられることに対し、子ども心ながらにも反抗心をたぎらせるのでした。懐かしい人と大地。

横溝正史
横溝正史

ミステリー研究家の田中潤司じゅんじ が選んだ「金田一耕助シリーズ」のベスト5は、1『獄門島』、2『本陣殺人事件』、3『犬神家の一族』、4『悪魔の手毬唄』、5『八つ墓村』ですが、「金田一耕助シリーズ」の著者の横溝正史 も、それに異存なく、でも、『悪魔が来りて笛を吹く』を入れてもらいたいとも書いています。推理小説は、ストーリーの展開、トリックの奇抜さ、登場人物のキャラ立ちなどが主な評価対象なのでしょうが、横溝は『悪魔が来りて笛を吹く』の「あわてず騒がず、悠々と筆を進めているところが、われながらあっぱれ」と書いています。

「金田一耕助シリーズ」で、金田一が当地(東京都大田区)に住むのは、戦後直後の昭和22年から、昭和32年初頭(三島が当地に来る2年前)までの約10年間で、場所は大森の山の手の 割烹かっぽう旅館「松月しょうげつ 」の4畳半の離れ。上記『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』『八つ墓村』『悪魔が来りて笛を吹く』の事件は、金田一の大森時代に発生したもののようです。

稲垣足穂

極端な例ですが、稲垣足穂は、自分の最初の作品『一千一秒物語』だけが重要であって、あとの作品は『一千一秒物語』の註釈に過ぎないとまで言っています。

『室生犀星詩集 (新潮文庫)』 三島由紀夫『花ざかりの森・憂国 〜自選短編集〜 (新潮文庫) 』。映画「憂国」では、三島自らがメガホンをとり、主演した(Amazon→)
室生犀星詩集 (新潮文庫)』 三島由紀夫『花ざかりの森・憂国 〜自選短編集〜 (新潮文庫) 』。映画「憂国」では、三島自らがメガホンをとり、主演したAmazon→
横溝正史『悪魔が来りて笛を吹く(金田一耕助ファイル4)(角川文庫)』 荒井由美のアルバム「14番目の月」。「朝陽の中で微笑んで」を収録。好きな人が目の前にいるのに、幸せなのに、だからとてもこわい・・・。公演のタイトルにするくらいなので、自薦の一作に違いない
横溝正史『悪魔が来りて笛を吹く(金田一耕助ファイル4)(角川文庫)』 荒井由美のアルバム「14番目の月」。「朝陽の中で微笑んで」を収録。好きな人が目の前にいるのに、幸せなのに、だからとてもこわい・・・。公演のタイトルにするくらいなので、自薦の一作に違いない

■ 馬込文学マラソン: 
室生犀星の『黒髪の書』を読む→
宇野千代の『色ざんげ』を読む→
三島由紀夫の『豊饒の海』を読む→
井上 靖の『氷壁』を読む→

■ 参考文献:
●『評伝 室生犀星』(船登芳雄 三弥井書店 平成9年発行)P.188、P.270-271、P.285 ●『大森 犀星 昭和』(室生朝子 リブロポート 昭和63年発行)P.197-203、P.255-256 ●『三島由紀夫研究年表』(安藤 武 西田書店 昭和63年発行)P.194 ●『宇野千代(新潮日本文学アルバム)』(平成5年発行)P.28-35、P.40 ●『生きて行く私(中公文庫)』(宇野千代 平成4年発行)P.148-150 ●『真説 金田一耕助 〜金田一耕助のモノローグ〜(横溝正史エッセイコレクション3)』(柏書房 令和4年発行)P.58 ●「ユーミン×帝劇『朝陽の中で微笑んで』寺脇康文、宮澤佐江が描く時を超えたSF純愛作」(取材・文・撮影:河野桃子)SPICE(エンタメ特化型情報メディア)→

※当ページの最終修正年月日
2024.11.10

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