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小林古径(47歳)は「
奥州白河(現・福島県白河市 Map→)の美男の山伏・安珍が、熊野に参詣のおり、熊野街道の庄屋(
「道成寺縁起絵巻」は室町後期に描かれましたが、「安珍・清姫伝説」の祖型が、日本最古の歴史書『古事記』(奈良時代初期の和銅5年(712年)に奏上)の「蛇女と一夜の契り」(
これらに共通するのは、情欲に駆られた「悪女」であることと、最後、仏の力で救われること。
能の『道成寺』も「道成寺縁起絵巻」と同様、室町後期の作ですが(観世(小次郎)信光の作といわれる)、ちょっと違ってきます。2人が死んでから物語が始まります。道成寺で例の梵鐘の供養をしている時、一人の白拍子が現れて供養の舞を踊ります。ほどなくして、白拍子は梵鐘を落とし、中に入ってしまう。「女」の執念を知った僧たちは、祈祷して、霊を慰めます。すると梵鐘の中から蛇体の女が現れ、哀れにも、炎で我身を焼き、日高川に姿を消す・・・。「悪女」ではなく、業につき動かされる哀れな人間として「女」を描きました。程度の差こそあれ、男性を含め、多くの人が清姫的体験をしていることでしょう。その普遍性が「清姫」(道成寺)を古典たらしめているのだと思う。長唄、人形浄瑠璃、歌舞伎、わらべ歌、映画、アニメ、絵本、オペラ、ゲームなどにもなっているようです。
三島由紀夫は謡曲を元に8本(三島自身が嫌った「源氏供養」を含めると9本)の戯曲を書き、「近代能楽集」としてまとめていますが、その一編に『道成寺』があります。清姫と安珍の代わりに
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こういった「報われない恋」のテーマは、多くの文芸に見られます。
大正10年、山本有三(34歳)が書いた戯曲『坂崎
坂崎出羽守は実在の人物です。慶長5年(1615年)、「大阪夏の陣」で、徳川家康(72歳)が、豊臣秀頼がいる大阪城を攻め、秀頼とその母・淀君(秀吉の側室)を自害に追い込みました。そのおり、秀頼の正室(家康の孫娘・千姫(18歳。2代将軍秀忠の娘)を救い出したいと考えます。そして救い出した者に千姫を
坂崎は燃え上がる大阪城から千姫を救出するのに成功、しかし、顔にひどい火傷を負ってしまうのでした。千姫は坂崎の顔の火傷を嫌悪します。さらには、千姫の前に、若くて美男で有能な本多
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| 六代目尾上菊五郎の坂崎出羽守(大正13年) ※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典:「国立劇場(第305回歌舞伎公演解説書<改訂版>)」(日本芸術文化振興会) | 映画「坂崎出羽守」の一場面。勝見庸太郎が監督と主演(坂崎出羽守の役) ※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典:『チラシで見る松竹蒲田映画の世界』(編:真木祐志) |
昭和31年、井上 靖(49歳)が「朝日新聞」に連載した小説『氷壁』にも、一度の“関係”を信じて、その後も相手の女性にアプローチする男が登場します(“ストーカー”と断罪されるでしょうか)。男は冬の前穂高の岩壁を登攀中、ザイルが切れて墜落死してしまいます。このザイル切断を巡る周囲の確執が、物語の縦糸になっています。
「愛」は双方の交歓が前提というところがあり(キリスト教的な普遍的な愛(アガペー)は別として)、相手に背を向けられた時、容易に憎悪に変わるかもしれません。「恋」は一方的な行為なので、ある意味、より純粋。「恋」が報われない時、それは絶望的に辛いことでしょうが、その情念を、凝結・結晶させることができれば、
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| ユゴー 『ノートル=ダム・ド・パリ(上) (岩波文庫)』。訳:辻 昶(つじ・とおる)、松下和則。女の心はいつも別の男にあった。彼女と“結ばれる”のは、彼女の命が尽きてから・・・ | 柏木ハルコ『失恋日記』(祥伝社)。生活保護のケースワーカーを主人公にした快作ドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」(会見動画→)の原作者による、失恋によく効く“薬”(かな?) |
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| 映画「ベニスに死す」。原作:トーマス・マン。監督:ビィスコンティ。初老の作曲家が、ベニスのリド島(Map→)の非日常で、美少年・タッジオに切なく惹かれてゆく。タッジオを演じたビョルン・アンドレセンは、「世界一美しい少年」と賞賛された ●予告編→ | 映画「仕立て屋の恋」。監督:ルコント。出演:ミシェル・ブラン、サンドリーヌ・ボネールほか。憧れの彼女が、ある日訪ねてくる・・・。恋の切なさと残酷さ。作中流れるブラームス「ピアノ四重奏曲第一番」の甘美なメロディーが忘れられない ●予告編→ |
■ 馬込文学マラソン:
・ 三島由紀夫の『豊饒の海』を読む→
・ 井上 靖の『氷壁』を読む→
■ 参考文献:
●『小林古径(巨匠の名画16)』(作品解説:関 千代 学習研究社 昭和52年発行)P.120-121 ●「安珍清姫」(松井俊諭)※「日本大百科全書(ニッポニカ)」(小学館)に収録(コトバンク→) ●「古事記、
※当ページの最終修正年月日
2024.9.4