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昭和30年7月11日(1955年。
より、三島由紀夫(30歳)の戯曲「
三島の戯曲「葵上」は、古くからの近江
紫 式部の『源氏物語』は全54巻あり、「葵上」はその9巻目。外見、教養、あらゆる芸に長け、光輝くばかりの源氏(皆は「光源氏」と呼ぶ)は、天皇(桐壺帝)の子という血筋でもあり、「全てが許される」存在でした。アイドル、いえ、現在のアイドル以上の存在で、彼に心ときめかさぬ女性はいません。年は22才。色を好んだので、多くの女性と夜を共にしてきました。義母(
表題の「葵」は、源氏の妻の名で、この章で彼女の死までが描かれます。葵(葵上)も文才があり、完璧な美しさも備え、今をときめく左大臣の娘でもありました。ところが、源氏より4才年上(26才)で、プライドが高く、年下の源氏に心を開くことができません。
かつて源氏が関係を持った元皇太子の妻(六条御息所)も、同様に全てを備えもつ麗人でしたが、源氏より7才年上で(29才)、やはりプライドが高く、彼に対して冷たい態度をとってきました。しかし、源氏を思う気持ちは誰にも劣らず烈火のごとくだったのです。
この2人が賀茂神社の葵祭でかち合います。源氏らの華やかな行列を見ようと人々が詰めかけました(源氏はやはりアイドル)。2人も
六条御息所の屈辱と源氏に対する思慕からくる葵上への嫉妬は頂点に達し、嫌な夢を見るようになります。葵上の髪を引きずり回し、葵上を叩く夢。夢なのですが、やけにリアルで、自分の
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この嫉妬という人間の普遍的なテーマを、世阿弥が能の謡曲「葵上」にしました。能では、葵上のことを舞台に延べた一枚の小袖で表します。こういった抽象的な様式美が能の魅力です。最初、
後半は、横川という名の
激しい闘争の末、小聖の祈りが届いて、六条御息所の怨念が断ち切られます。
紫式部→世阿弥と受け継がれた「葵上」を三島はどう料理したでしょう?
三島は、時代背景を敗戦後とし、舞台を病院の一室としました。若林 葵が入院したというので、夫の若林 光が旅先から病院に駆けつけます。光は源氏のように美しい青年です。看護婦が言うには、毎晩遅くに、綺麗な中年婦人が見舞に来るといいます。その時刻になり、看護婦と入れ替わりに六条康子が登場。
光と康子はかつて付き合いがありましたが、今は、光は康子を愛していません。そして、葵と結婚。それなのに、縒りを戻そうと、あるいは葵を苦しめるために、康子はやって来るのでした。
三島は「葵上」の他にも、「
「邯鄲」は「邯鄲の枕」を題材にした謡曲で、作者不詳。
「綾の鼓」も作者不詳。庭掃きの老人が身分の高い若い女御に恋をする悲話です。観世小次郎信光の謡曲「道成寺」同様、報われない恋がテーマです。
「卒塔婆小町」のシテ(主役)の老婆は、かつて絶世の美女と謳われた小野小町なのでした。「檜垣」同様、「老女物」です。
世阿弥の謡曲「班女」には、 恋人を思うあまりに気の違った
当地に稽古場を持つ劇団「山の手事情社」(東京都大田区池上四丁目2-8 Map→ Site→)が、平成29年、三島の「班女」の脚本で「若輩」「妙齢」「老齢」の3バージョンを同時公演、新たな形で鮮烈に蘇らせました。能楽師の安田 登氏と演技における「様式」について意見交換しながら舞台を作り、そのプロセスも映像作品にしています。
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| 三島由紀夫『近代能楽集 (新潮文庫)』。「葵上」「道成寺」「熊野」など8篇に加え、作者三島が嫌った「源氏供養」も加え、全9篇を収録。解説:ドナルド・キーン | 西野春雄、伊海孝充『世阿弥 〜日本人のこころの言葉〜』 (創元社)。能を大成した世阿弥が残した言葉「秘すれば花」。その「花」とは? |
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| 『マンガでわかる能・狂言 〜あらすじから見どころ、なぜか眠気を誘う理由まで全部わかる! 〜』(誠文堂新光社)。監修:小田幸子 | 「蜘蛛巣城」。監督:黒澤 明、出演:三船俊郎、山田五十鈴ほか。シュークスピアの「マクベス」を原案に、能の様式美で表現した作品 |
■ 馬込文学マラソン:
・ 三島由紀夫の『豊饒の海』を読む→
■ 参考文献:
●『三島由紀夫研究年表』(安藤 武 西田書店 昭和63年発行)P.126 ●「近代能楽集」(石澤秀二)※「日本大百科全書(ニッポニカ) 」に収録(コトバンク→) ●「葵上」(増田正造)※「日本大百科全書(ニッポニカ) 」に収録(コトバンク→) ●『源氏物語が面白いほどわかる本』(出口
■ 参考映像:
●「黒澤 明が描いた『能の美』」(制作:NHK、フラミンゴ・ビュー・カンパニー スピーカー:仲代達矢、原田美枝子、ジュリー・テイモア、黒澤久雄、友枝昭世、小泉堯史、熊田雅彦、安田 登、本田光洋、野村萬斎ほか)
※当ページの最終修正年月日
2023.7.11