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昭和26年2月6日(1951年。
帝劇ミュージカルの第1回「モルガンお雪」が初演されました。公演を企画したのは
モデルのモルガンお雪という人物は、元は京都祇園の芸妓です。明治34年(20歳)、米国の金融王ジョン・モルガンの甥のジョージ・モルガン(30歳)に見初められ、3年後の明治37年に4万円(現在の1億5,000万円ほどか)という身請け金で引き取られ、横浜の米国領事館で結婚しました。マスコミは「日本のシンデレラ」と讃えたり、「金に目がくらんだ女」と蔑んだり・・・、しかして、お雪はすっかり有名人になりました。 そんなお雪ですが、渡った先のニューヨークはバラ色でありませんでした。過酷といってもいいかもしれません。さっそく言葉の壁にぶつかり、好奇の目にさらされ、モルガン一族の内外から差別を受けます。クリスチャンでない“芸者ガール”と結婚したということで、夫のモルガンも周りから責められました。2人は2年ほど日本で暮らし、その後はフランスに移住、フランスの社交界でも有名になります。しかし、やはり周りとの温かい人間関係を築くことはできなかったようです。日本の母親も亡くなり、大正4年夫のモルガン(43歳)も亡くなります。 その後新しい恋人ができましたが、彼も昭和6年に亡くなります。第二次世界大戦前の不穏なヨーロッパを去って、昭和13年(57歳)帰国。さまざまな苦難の中で思うところがあったのでしょう、敗戦後は敬虔なカトリック教徒となり、京都で宗教的な日々を送りました。京都の「カトリック衣笠教会」(京都府京都市北区衣笠御所ノ内町4 Map→)は彼女の寄付によって建てられたとのこと。昭和38年5月18日、満81歳で死去。京都金閣寺裏のカトリック墓地の墓碑には「テレジア・ユキ・モルガン」と刻まれています。芸妓から大富豪の妻へ、そしてさらに敬虔なキリスト教徒へ、と2度生まれ変わったような激動の人生でした。 人は普通は緩やかに成長・変化していくものでしょうが、それが急激であったり、方向性が全く異なるとあたかも「生まれ変わった」ような印象になります。 社会主義を学び実践した堺 利彦は、寛容な人でした。服役中に(国民に主権がなかった戦前は民主主義的、社会主義的なことを主張すると投獄された)、全蔵書をある人に預けたそうです。ところが、その本を預かった人がお金に困って、無断で全て売っぱらってしまったというのです。 堺は大切な蔵書を全て失いました。ところが堺は、「困った時は仕方がない」とその人を一切せめず、以後もずっと仲良くしたというのです。 堺は第一高等中学校(第一高等学校)入学直後(17歳頃)から吉原での遊びを覚え、酒に溺れ、借金を作りまくり、学校の成績は最下位に転落、月謝も未納で学校から除名され、養家からも縁を切られています。 立ち直るきっかけは、明治28〜29年(24~25歳)、尊敬していた父母を立て続けに失ったこと。 身を持ち崩した自分を諌めるために自らの命を絶とうとすらした母を思い、堺は激しく悔い始めました。あと最初の妻の美知子の存在が大きいです。両親の死の狭間(明治28年10月頃)に縁談がまとまり、父の死の2ヶ月後に結婚。美知子がどん底にあった堺を理解し支えたのです。2人と長男の不二彦は明治32年(28歳)から翌33年にかけて当地(東京都大田区大森北)にも住んでいます。美知子は明治37年、肺の病いで他界しますが、彼女が堺を「生まれ変わらせました」。そして、自分もかつては散々堕落した身なので、ダメな状態の人をも理解することができたのでしょう。
当地に来る1年前(明治31年)、堺(27歳)は、ヴィクトル・ユゴーの『レ・ミゼラブル』のあら筋「哀史
『レ・ミゼラブル』も、「生まれ変わる」物語です。知り合いが自分の本を全て売っぱらってしまった時、堺は、『レ・ミゼラブル』のミリエル司教のことを思い出したに違いありません。姉の餓えた子のために1本のパンを盗んだため結果19年間投獄されたジャン・ヴァルジャンでしたが、出獄後も社会から冷遇されます。そんな彼を温かく迎えたのがミリエル司教でした。それなのに、ジャンは教会の銀の食器を盗んでしまう。翌日、憲兵に捕まったジャン。教会に引き連れられて来ると、ミリエル司教は、何と、銀の皿はジャンに差し上げたと言い、ジャンの窃盗を否定、さらには、上げ忘れていたとして銀の燭台までジャンに与えるのでした。世間に対する不信と憎悪に囚われていたジャンでしたが、この時、雷に打たれたよう人の世の“愛”に気づくのです。その後のジャンはミリエル司教の精神を自らも生きようとします。 人は何らかの“罪の念”を抱いているのだろうし、生まれ変わりの物語は、多くの人に感銘を与えるようです。 日蓮の迫害者だったのに後に熱烈な日蓮信者となった
子母沢 寛の小説『勝 海舟』でも、飲んだくれの「鍛冶屋のとっさん」が生まれ変わる話が印象的でした。本気で打ち込める仕事と出会うと人は生まれ変わりますね、きっと。
■ 馬込文学マラソン: ■ 参考文献: ※当ページの最終修正年月日 |