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昭和6年10月29日(1931年。
石川善助(30歳)が友人の
アーリヨシヤン群島ノ岩角ヲ
相手を思う
・・・アア、秋ノ終リノ天ノ上ノ笛ノ
と、身の回りのことを書いていますが、まるで詩の一節のよう。その後もずらずらと書き連ねていますが、ふと、
・・・僕ハイマ詩ヲカイテイマス。 小説モ、童話モカイテヰマス。 ダガ僕ニハ愛スル女ノ人ガナイノヲクヤンデヰマス。 木枯ヨ、雲ノ中ノ
と願望をユーモラスにさらけ出し、
・・・トキドキハ兄等モナガイテガミヲトバシテヨコセヨ。
と結んでいます。人なつっこさ全開ですね。語りかける言葉あり、独白調あり、映画の台詞もあり、戯れ言もあり、と楽しいです。手紙では、これだけの密度のある思いを一人の人に届けることができるのですね。コピペや単語登録可能なメールや、文例集を参考にした
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三島由紀夫もたくさん手紙を書いた人で、川端康成と交わした手紙だけでも一冊の本(Amazon→)ができるくらいです。さらには、ドナルド・キーンや東 文彦とは川端以上に書簡を交わしています。ドナルド・キーンとは死の直前まで手紙を交わし、三島(45歳)は、な、なんと、死の翌日(昭和45年11月26日)づけの手紙も書いています!
前略
小生たうとう名前どおり
今さら御挨拶するのも他人行儀みたいですが、キーンさんが小生に尽して下さつた御親切、友情、やさしさについては、ただただ感謝のほかはありません。キーンさんのおかげで、僕は自分の仕事に自信を抱くことができましたし、キーンさんとの交際はたのしさに充ちてゐました。本当に有難うございました。・・・
死ぬ間際までユーモアを保ちえるほど平常心であったことが伺えます。そして最後まで紳士だった。以下で、途中まで進んでいる『豊饒の海』の英訳が、“事件”(三島事件)のあと頓挫せずに全巻出版されるかを見届けてもらいたいとキーンに依頼し、「さうすれば世界のどこかから、きつと小生といふものをわかつてくれる読者が現はれると信じます」と書いています。当たり前といえば当たり前ですが、どこかで理解されることを願いつつ三島は逝ったのです。
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大正7年、山川 均(37歳)(この頃、山川夫妻は当地(東京都大田区中央一丁目)の春日神社の裏辺りに住んでいた)は、労働組合の必要性を説くタブロイド紙「青服」を発行し、それが米騒動を煽動したとして4ヶ月の実刑をくらっています。両親と妻の実家に心配をかけないようにと、山川は入獄する前に毎日の無事を知らせる葉書を入獄期間中のものまで書いて準備し、入獄後は妻の菊栄(28歳)が切手を貼って毎日せっせと出したそうです。しかし、これには後日談があって、
・・・山川の郷里の父は昔者で頑固な老人ながら、おそろしく頭の鋭い皮肉な人で、身内の誰やらに、
「新聞でみたが世間には同じような名の人があるものだね。山川均という人が監獄にはいったそうな」
といったとか。ぶじを知らせるえはがきのたよりは毎日届いていたはずですから、何と思ったことでしょう。・・・(山川菊栄『おんな二代の記』より)
と、全部、ばれていたようですね(笑)。
川端康成は書簡を交わしつつ新進作家を育てました。ハンセン病をわずらう北條民雄(当時21歳。川端は36歳)とは、北條が集中治療室に入るまでの約3年間に計90通の書簡を交わしています。
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| 原稿用紙に書きなぐられた有三の妻はなにあてた手紙。これらの手紙を、はなは一生の宝にした(『山本有三 (新潮日本文学アルバム)』より) |
山本有三(31歳)と井岡はな(21歳)は、大正8年、めでたく結婚しましたが、早々に、はなは、有三の昼も夜もないすさまじい執筆生活に根をあげて実家に帰ってしまいます。はなの父の本田増次郎(著名な英文学者)は、かんかんに怒って、娘を有三の元へは帰さず、はなに離縁を命じます。そのあとの山本は、気が違ったようになって、はなに熱烈なラブレターを書きまくっています。9ヶ月後、有三の熱意に打たれたのでしょうか、はなは有三の元に戻ります(それによりはなは親から勘当された)。
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| 『アーレント=ヤスパース往復書簡(1)』(みすず書房)。2人の哲学者の間で交わされた類を見ない全433通。全3巻。誠実さの復権を | 三島由紀夫『レター教室(ちくま文庫)』。手紙だけで構成された作品。手紙の文例集ともなっている? 肉体的な愛を申し込む時の手紙など |
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| サマセット・モーム『手紙(角川文庫)』。訳:西村孝次。完全に正当防衛からの殺人と思われたが、一通の手紙から・・・ | 「Love Letter」。岩井俊二監督の劇場用長編映画第1作。日本アカデミー賞など多数の賞を受賞。出演:中山美穂、豊川悦司、酒井美紀ほか |
■ 馬込文学マラソン:
・ 石川善助の『亜寒帯』を読む→
・ 三島由紀夫の『豊饒の海』を読む→
・ 川端康成の『雪国』を読む→
■ 参考文献:
●『詩人 石川善助 ~そのロマンの系譜~』(藤 一也 万葉堂出版 昭和56年発行)P.364-366、P.456 ●『決定版 三島由紀夫全集38』(新潮社 平成16年発行)P.453-454 ●『おんな二代の記』(山川菊栄 平凡社 昭和47年初版発行 昭和63年15刷参照)P.196-200 ●『山本有三(新潮日本文学アルバム) 』(昭和61年発行)P.34-41、P.106-107
※当ページの最終修正年月日
2024.10.29