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今あるモノを使う(山本周五郎の妻・きよ以、死去する)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

当地(東京都大田区南馬込一丁目)にいた頃の山本周五郎。 後ろの本箱が妻の棺桶になった ※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典:『山本周五郎(新潮日本文学アルバム)』

 

昭和20年5月4日(1945年。 山本周五郎(41歳)の妻・きよ(36歳)が膵臓癌で亡くなりました。

戦争も末期で、物がなく、 周五郎は当地の自宅(東京都大田区南馬込一丁目18-5 Map→)の本箱を崩して棺桶を作り、夫人を納めて、空襲警報が鳴る中をリヤカーをひいて桐ヶ谷きりがや 火葬場(東京都品川区西五反田五丁目32-20 Map→)まで運んでいきました。友人の添田知道(42歳)と、又従兄弟の写真家の秋山青磁(40歳)も手伝っています。きよ以も文学を愛した人なので、本箱の、それも親しい者たちが作った棺桶に収まれたのだから、よかったですね。出来合いの棺桶(出すお金によって見栄えが違う!?)に入るより数百倍素敵です。

このように「あるものを使う」良さってありますね。周五郎は、聖書にお金を挟んで金庫がわりにもしていたそうです。お金に縁のなさそうなところに保管すれば泥棒さんの目を欺けるというわけ。

数十年前までは、簡単な大工道具や、裁縫道具やミシンなどが多くの家にあり、ちょっとした修繕や作り替えに使える木や紙や布の切れ端も家にあって、「あるものを使う」ことを今よりもずっとやっていたと思います。

今あるモノを使い続けるのは、不便だ、カッコ悪い、貧乏くさい、買い換えた方がお得、と考える人が多くなったのは、目新しいものを買ってもらいたい生産者や販売者や広告会社に刷り込まれたからでしょう。本体は全然大丈夫なのに一箇所が故障しただけで、丸ごと買い替えなくてはならないような製品の作り方にも疑問を感じます。

作っては捨てるを盛大にやってきたことで、我々はどれだけ環境(地球)を破壊してきたことでしょう。ようやくSDGs(エス・ディー・ジーズ。Sustainable Development Goals。地球上の全ての人間が今後も生永らえるための方策)が叫ばれるようになって、従来の消費社会に疑問の目が向くようになってきました。

目の前にあるものを違う用途に生かす」といった思考パターンを「ブリコラージュ」と言います。ゼロから設計図を引いてモノを作る「設計」「エンジニアリング」と反対の概念です。「寄せ集めて自分で作る」「リサイクル」「リフォーム」「リユース」「転用」「修繕して使い続ける」とも重なってきます。従来のやり方にこだわる原理主義ではなく、その都度用途を考える機能主義。どちらかと言えば先進国と言われる国々がおろそかにしてきた「ブリコラージュ」を見直し、受け入れ、発展的に利用していく必要がありそうです。

昭和4年6月1日、南方熊楠(62歳)が、和歌山県 田辺 たなべ 湾内の神島Map→近くにいらした昭和天皇(28歳)に、粘菌について進講しています。天皇に何かを献上するときは、普通桐の箱など最上級のものに入れるようですが、熊楠はキャラメルの空き箱に粘菌を入れて天皇に献上したそうです。それは、粘菌にはキャラメル箱が一番と考えたからで、まさに「原理」(体裁)より「機能」。昭和天皇もお心柔軟な方だったのでしょう、熊楠のモノにこだわらない態度を愉快に思われたようです。

川端龍子邸(東京都大田区南馬込)の「爆弾散華の池」は、米軍が落としていった爆弾の穴を生かして作ったもので、これも良いお手本ですね。

出来合のものにない味が(東京都大田区中央二丁目) 西六郷公園(タイヤ公園)のゴジラ(東京都大田区西六郷一丁目6-1 map→)
出来合のものにない味が (東京都大田区中央二丁目 西六郷公園(タイヤ公園)のゴジラ (東京都大田区西六郷一丁目6-1 Map→
かわいい!(平和島水質管理所 東京都大田区平和の森公園1−1 map→) そこには懐かしい時間も刻まれ (東京都大田区山王二丁目)
かわいい!(平和島水質管理所 東京都大田区平和の森公園1-1 Map→ そこには懐かしい時間も刻まれ (東京都大田区山王二丁目
郵便受けとして使われているようだ ((株)江藤商店 東京都大田区大森中二丁目14-6  map→) 工場跡を転用したユニークなギャラリー「南製作所」(東京都大田区西糀谷二丁目22-2 map→ ブログ→
郵便受けとして使われているようだ ((株)江藤商店 東京都大田区大森中二丁目14-6 Map→ 工場跡を転用したユニークなギャラリー「南製作所」(東京都大田区西糀谷二丁目22-2 Map→ ブログ→

使い続け、残すのは、モノにはそのモノと生きた人たちの人生歴史思いも刻まれるから。

歴史や痕跡を残すのは、ノスタルジックで美的な景観資源とするといった「金儲け」のためではありません。残されたものを踏まえて現在・未来を考察する人文科学などでは絶対に必要だからでもあります(経済第一主義者にはそこらへんが理解できない?)。

石碑や石仏が新しいデザインで甦る(延命寺 東京都大田区矢口二丁目26-17 map→) 空襲で焼けた本堂の古瓦が生かされている (本門寺 東京都大田区池上一丁目1-1 map→)
石碑や石仏が新しいデザインで甦る(延命寺 東京都大田区矢口二丁目26-17 Map→ 空襲で焼けた本堂の古瓦が生かされている 本門寺 東京都大田区池上一丁目1-1 Map→
交詢(こうじゅん) ビルディング。交詢社は福沢諭吉が提唱してできた日本初の実業家社交クラブ。建物前面にかつての建築様式を残している(東京都中央区銀座六丁目8-7 map→) 栃木県那須町芦野の「石の美術館」。戦前からの石蔵を生かして設計されている。同地特産の芦野石を使用。設計:隈 研吾 (STONE PLAZA 那須芦野・石の美術館→)
交詢こうじゅん ビルディング。交詢社は福沢諭吉が提唱してできた日本初の実業家社交クラブ。建物前面にかつての建築様式を残している(東京都中央区銀座六丁目8-7 Map→ 栃木県那須町芦野の「石の美術館」。戦前からの石蔵を生かして設計されている。同地特産の芦野石を使用。設計:隈 研吾 STONE PLAZA 那須芦野・石の美術館→

東大の法文一号館(東京都文京区本郷七丁目3-1 Map→)。かつて八角形の形態から「八角講堂」と呼ばれましたが、関東大震災で倒壊。建築家・内田祥三は、「八角講堂」の土台をそのまま使って新たな建物を建てました。よくみると今も部分的にその形態がわかります。 平成27年6月6日、この法文一号館で「立憲デモクラシーの会」のシンポジウム「立憲主義の危機」がありました。ディスカッションで東大法学部教授の石川健治さんが、会場(法文一号館)に引きつがれている「歴史」と、立憲主義をその「歴史」(成り立ち)から学ぶ意義を関連づけて語られ、印象に残りました。

前にTVで、ヴァイオリニストの五嶋みどりさんが、同じ服を着るのは恥ずかしいと皆が言うけど、いまだに理解できないというようなことを言っていました。違う服を着なくてはならないというのも業界からの刷り込みですね。物事に打ち込んでいる人には、どうでもいいことでしょう。

売らんかなのマーケットからの広告に惑わされない、「ブリコラージュ」っぽいのが優しくってカッコいいと思える感性が社会にもっと根付くといいですね。

・・・むかしママが好きだった
ブーツをはいていこう・・・(荒井由美「ベルベット・イースター」より)

Let's all get up and dance to a song that was a hit
Before your mother was born・・・(John Lennon and Paul McCartney「Your Mother Should Know」より)

レヴィ=ストロース 『野生の思考』(みすず書房)。昔から世界各地にあった「ブリコラージュ」に注目した 内田 樹(たつる) 『こんな日本でよかったね 〜構造主義的日本論〜 (文春文庫)』。内田さんは当地(東京都大田区下丸子)出身の哲学者。「ブリコラージュ」についても
レヴィ=ストロース 『野生の思考』(みすず書房)。昔から世界各地にあった「ブリコラージュ」に注目した 内田 たつる 『こんな日本でよかったね 〜構造主義的日本論〜 (文春文庫)』。内田さんは当地(東京都大田区下丸子)出身の哲学者。「ブリコラージュ」についても
インフォビジュアル研究所『図解でわかる 14歳からのプラスチックと環境問題』(太田出版) 嶋田洋平『ぼくらのリノベーションまちづくり 〜ほしい暮らしは自分でつくる〜(日経BP)』
インフォビジュアル研究所『図解でわかる 14歳からのプラスチックと環境問題』(太田出版) 嶋田洋平『ぼくらのリノベーションまちづくり 〜ほしい暮らしは自分でつくる〜(日経BP)』

■ 馬込文学マラソン:
山本周五郎の『樅ノ木は残った』を読む→

■ 参考文献:
●『山本周五郎 馬込時代』(木村久邇典くにのり  福武書店 昭和58年発行)P.87、P.227-243 ●『空襲下日記』(添田知道 刀水書房 昭和59年発行)P.142-145 ●『山本周五郎(新潮日本文学アルバム)』(昭和61年初版発行 昭和61年2刷参照)P.42、P.45 ●『画人生涯筆一管(自伝)』(川端龍子 東出版 昭和47年発行)P.390 ●『こんな日本でよかったね 〜構造主義的日本論〜(文春文庫)』(内田 樹 平成21年発行)P.91-97 ●「私たちは岐路に立っている」( 国谷裕子くにや・ひろこ )※「世界」(岩波書店)令和元年12月号 P.82-90

※当ページの最終修正年月日
2024.5.4

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