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「思想の絶対化」を批判(三島由紀夫の『喜びの琴』、上演中止となる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三島由紀夫 ※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典:ウィキペディア/三島由紀夫(平成28年11月18日更新版)→

 

昭和38年11月21日(1963年。 文学座の戌井いぬい 市郎理事が、当地の三島由紀夫邸(東京都大田区南馬込四丁目 32-8 map→)を訪れ、三島作品『喜びの琴』の上演が、団員の意向で保留になったことを三島(38歳)に伝えました。 三島はいっそ上演中止を望み、双方が合意。翌日(11月22日)、三島は文学座を退いて、昭和27年から約11年間続いた文学座との関係を断ち切ります。

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文学座ではすでに『喜びの琴』の稽古に入っていましたが、なぜ、こんなことになったのでしょう?

一部の団員には、同作に反共的な(共産主義を否定する)台詞があり、耐え難いというのです。同作は警察署の一室が舞台ですが、そこに登場する片桐という公安の若い巡査が、共産革命での粛正について語ります。

片桐:(村松の目くばせに気づかず) わかり切つてるぢやありませんか。国際共産主義者の陰謀ですよ。あいつらは地下にもぐつて、世界のいたるところに噴火口を見つけようと窺つてるんです。世界中がこの火山脈の上に乗つかつてるんです。もしこのほしいままな跳梁ちょうりょう をゆるしたら、日本はどうなります。(いよいよ激して)日本国民はどうなります。日本の歴史と伝統と、それから自由な市民生活はどうなります。われわれがガッチリ見張つて、奴らの破壊活動を芽のうちに摘み取らなければ・・・(三島由紀夫『喜びの琴 』より)

ソ連や中国が共産革命の時に大規模な粛正を行ったのは事実でしょう。ソ連については、『喜びの琴』上演中止(昭和38年)の7年前の昭和31年、フルシチョフ(61歳)がスターリン(没後約3年)らがおこなった大粛清を公表し、日本でも知られるところとなりました。

中国については、中華人民共和国建国(昭和24年)前後から小規模な思想統制はあっても、大粛清が行われる文化大革命は昭和41年からなので、文学座の座長の杉村春子(『喜びの琴』上演中止時57歳)も文化大革命を主導することとなる毛沢東を支持していたようです。中国共産党を激烈に批判した台詞に過剰反応した座員がいたのもそのためでしょう。

また、『喜びの琴』では作中、電車転覆事故が発生しますが、右翼系の人の仕業と思われるように仕組んだ共産系の人の陰謀というオチです。 実は、同作が上演中止になる3ヶ月ばかり前(昭和38年9月)、政府・警察・検察・司法がグルになって共産主義者や労働組合員を陥れようとした「松川事件」という列車転覆謀略事件が14年という歳月をへてようやく結審し、告訴された共産系の人たちの無罪がようやく確定したばかりだったのです。その判決に当てつけているようでもありました。

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三島がこのような物語運びにしたのは、ソ連・中国の共産党の言論弾圧や粛清に強い危機感を持ったからでしょう(だからといって「松川事件」を不真面目に取り上げていいとは思いませんが)。

昭和41年(『喜びの琴』上演中止の3年後)、中国に文化大革命が起り粛清が顕著になります。結果、文化大革命での粛正は死者40万人、行方不明者は数千万人にも及ぶといわれます。毛沢東思想を信奉する学生たちが 紅衛兵 こうえいへい を組織し、「革命無罪(革命のためにやったことは罪に問われない)」を掲げ破壊・暴行を繰り返したのです。反対派と見なされることを恐れた人々は、吊るし上げられる前に、自らの“潔白”を示すために進んで自己批判しました(戦前、弾圧された左系の人がすすんで政府協力したのに似ている)。中国の歴史・文学の大御所 郭 沫若 かく・まつじゃく も、 「(自著は)すべて焼き尽くすべきである」と発言。文化大革命の10年間は、日本でも学生運動が武闘化。文化大革命の影響もあったでしょう。

三島(42歳)は、文化大革命が起きた翌昭和42年には、川端康成(67歳)安部公房(42歳)石川 淳(67歳)らと反対を表明しています。

・・・われわれは左右いづれのイデオロギー的立場をも超えて、ここに学問芸術の自由の圧殺に抗議し、中国の学問芸術が(その古典研究をも含めて)本来の自律性を恢復するためのあらゆる努力に対して、支持を表明するものである。・・・(4氏の抗議声明より)

三島らに賛同する人が少なかったのは、当時、中国に唯一特派員を置くことができた「朝日新聞」が、中国におもねってかあまり文化大革命を批判しなかったことが大きいようです。毛沢東をニコニコした穏やかなおじさんくらいに思っている日本人が多かったと思います。

そんな中できちんと批判した三島らはやはり鋭い。共産党党員だった安部公房も声明に名を連ねていることにも注目したいところ。安部は昭和36年党大会決定に批判的な立場をとり、党を除名されてはいますが。

声明の中の「左右いづれのイデオロギー的立場をも超え」という部分が特に重要です。思想が「力」と一体となって絶対化するときの悲劇は、古今東西、左、右、聖、俗、(ホロコースト、魔女狩り、自警団の暴走、テロなど)に関係なくそこらじゅうでありましたから。

なお、文化大革命を例にあげて「日本共産党も恐い」という人が今もいるようですが、当時、中国共産党が日本共産党に「日本でも文化大革命を」と圧力をかけてきたとき、日本共産党は突っぱねています。日本共産党は昭和30年、武力を用いた革命を放棄したのです(六全協ろくぜんきょう<日本共産党第6回協議会>。武力闘争を放棄しなかった人たちが新左翼となる)。今なお日本共産党は公安の監視対象だそうですが、どういった根拠からでしょう? 元特高関係の線の方がよっぽど恐いのでは?

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話を元に戻し、団員から拒絶された『喜びの琴』ですが、一読すれば、これが反共的なプロパガンダ作品でないことは明らかです。むしろ反共思想を単純に信じ込んでいる主人公の片桐を批判しているとさえいえます。三島が言いたかったのは、おそらく、「絶対的に正しい思想」などはどこにもないということ。相対的な思想を人は孤独に受け入れるしかない。しかし、その孤独の中で、初めて聞こえる“喜びの琴”(救済の象徴?)・・・。平成27年9月15日、国会で公述した「 SEALDsシールズ」の奥田愛基あき さんの言葉「勇気を出して孤独に思考し、判断し、行動し」にもつながってきます。世間で受けがいい人や権力者、リーダー、思想家、教祖、占い師、綱領、経典を鵜呑みにすれば、あれこれ自分で考えなくていいので楽で、全能感も得やすいでしょうが、そこに排他が生まれ、それが恐い。

三島は『喜びの琴』の上演が中止になった6日後の11月27日、「朝日新聞」に「文学座の諸君への『公開状』 ─『喜びの琴』の上演拒否について」を掲載、文学座の「生煮えの政治的偏向」を厳しく批判しました。

三島の文学座脱退後、同座の矢代静一、中村伸郎、村松 英子 えいこ ら十数名も退団。 翌年、退団者が中心になって 「NLT(Neo Litterature Theatre:新文学座)」 が作られます。 NLTの命名者は、文学座の創設に携わった岩田豊雄(獅子文六)です。 創設者さえも文学座のやり方に失望したようです。

『決定版 三島由紀夫全集〈24〉戯曲(4) 』(新潮社)。「喜びの琴」、「喜びの琴」の創作ノートを収録。ほかに「サド侯爵夫人」「わが友ヒットラー」など 池上 彰 『そうだったのか! 現代史(集英社文庫)』。学校ではあまり戦後史を教えないようなので、ここらあたりで。スターリンとフルシチョフのこと、文化大革命のことも書かれている
『決定版 三島由紀夫全集〈24〉戯曲(4) 』(新潮社)。「喜びの琴」、「喜びの琴」の創作ノートを収録。ほかに「サド侯爵夫人」「わが友ヒットラー」など 池上 彰 『そうだったのか! 現代史(集英社文庫)』。学校ではあまり戦後史を教えないようなので、ここらあたりで。スターリンとフルシチョフのこと、文化大革命のことも書かれている

■ 馬込文学マラソン:
三島由紀夫の『豊饒の海』を読む→
川端康成の『雪国』を読む→

■ 参考文献:
●『決定版 三島由紀夫全集24』(新潮社 平成14年発行)P.7-100、P.713-715 ●『二人の夫からの贈りもの』(長岡輝子 草思社 昭和63年発行) P.279-281、P.302-303 ●『五衰の人』(徳岡孝夫 文藝春秋社 平成8年発行)P.79-80 ●『三島由紀夫研究年表』(安藤 武 西田書店 昭和63年発行)P.262

■ 参考サイト:
・ ウィキペディア/●喜びの琴事件(平成26年11月15日更新版)→ ●喜びの琴(平成24年11月20日更新版)→ ●フルシチョフ(平成28年11月3日更新版)→ ●スターリン批判(平成28年8月9日更新版)→ ●文化大革命(平成28年11月10日更新版)→ ●劉 少奇(平成25年9月1日更新版)→ ●林彪(平成25年9月7日更新版)→ ●紅衛兵(平成26年1月5日更新版)→ ●郭沫若(平成26年1月25日更新版)→ ●安部公房(平成30年11月4日更新版)→ ●大紀元(平成25年10月8日更新版)→ ●彭徳懐(平成26年1月21日更新版)→ ●日本共産党(左派)(平成27年12月28日更新版)→ ●村松英子(平成26年9月9日更新版)→ ●浪曼劇場(平成24年6月13日更新版)→

松岡正剛の千夜千冊/『文化大革命と現代中国』→

「大紀元」(日本版)/【図説】中国共産党政権の無常な権力闘争史→

郭沫若研究会報/第五号→

Everyone says I love you !/SEALDs奥田愛基氏「困難な時代にこそ希望があることを信じて自由で民主的な社会を望み反対します」→

当ページの最終修正年月日
2018.11.21

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