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「山王書房」開店の5年前(昭和23年)、樺太から引き揚げてきた
場所は「大森郵便局」(東京都大田区山王三丁目9-13 Map→)の池上通りを挟んだ向いあたりで、敗戦直後、「大森駅」から「大森郵便局」あたりまでおよそ990mにわたって400軒もの闇屋が並び、「東京一長い」簡易マーケットになっていました。その末端あたりです。
埴原の小説『ある引揚者の生活』(昭和33年発表)によると、
「
・・・ ミクニは馴れた動作で本を整理したり、いかにも以前から商人のように、ちゃんとリンゴ台に腰を下して店番をしている。不思議な女だと赤三は妻の動きを少しはなれて眺めた。赤三と少子は店のまわりをぐるぐるしていたが、それにあきると他の露店をのぞいたりして、疲れたとき赤三はミクニに代って店番の台に腰を下した。案外、生活の座があるのに驚いた。夕刻五時頃までに七、八冊の本が売れたがほとんど赤三の蔵書ばかりで、何んだか自分の精神を切り売りしている淋しさに心が重くなった。
「開店祝いをやろうや」
すぐ近くの食堂に這入った。少人は大きな丼をかかえ、いつもと違う生活にはしゃぎ出した。赤三は焼酎をやめて酒を注文した。親子三人のささやかな
「俺はいいものを書くよ」
赤三の唇から無意識に突いて出た。いいものとは、この脅威を破るものでなくてはならないと切実に感じた。・・・(埴原一亟『ある引揚者の生活』より)
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川口松太郎も、たくましくも14歳頃(大正2年頃)、一人、伝法院(東京都台東区浅草二丁目3 Map→)の塀際に古本を並べて商売していました。 根っからの苦労人で(自分では苦労と思ってなかった節もあり)、彼の作品の人情味は、そこらあたりから来るのでしょうね。
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出版業界の市場規模(推定販売金額)は、平成8年をピークに、21年後の平成29年には50パーセントほどにも減少したようです。1990年代以降のインターネット普及の影響が大きいのでしょう。今まで書籍・雑誌から得ていた情報の多くを手軽にインターネットから得られるようになってきました。
とはいえ、出版社が長い年月をかけて築いてきた「信頼」は大きく(「売らんかなの出版社」に転落するところも多いようだが)、良質な情報は、以前と変わらずに、良質な出版社から発信されています。人生に行き詰った時でも、本屋に行けば何とかなると感じている方も多いと思います。アジール(聖域、避難所、自由領域)としての役割も本屋は果たしてきました。
本屋も、通販サイトの影響もあって、急速に減少しているようです。2000年からの10年間で、30パーセントほども減少したという統計があり、また、存続している本屋も例外はあっても以前ほどは利用されていないように感じられます。古書店は“掘り出し物”もありますが、本を効率よく見つけ、それなりの価格で入手することを考えると(出品者が提示した価格を比較できる)、通販サイトが圧倒的に便利です。レビューを参考にすることもできますし。本屋が生き残るには、相当な覚悟と、こだわりと、工夫と研鑽が必要と思われます。
そんな中、面白い試みもなされています。
東京キララ社の「ヴァイナル文學選書」は、1つの町を舞台にした小説を複数の作家が書き、その町でしか販売しないといった限定的な方法を取っています。その町に行かなくては本を入手できないのです(通販はやっているようです)。例えば、新宿歌舞伎町を舞台にした菊地
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| 久住邦晴 『奇跡の本屋をつくりたい 〜くすみ書房のオヤジが残したもの〜』(ミシマ社)。「くすみ書房」 店主の遺稿 | 『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)。編集:花田菜々子、北田博充 、綾女欣伸 |
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| 内沼晋太郎『これからの本屋読本』(NHK出版) | 永江 朗『私は本屋が好きでした 〜あふれるヘイト本、つくって売るまでの舞台裏〜』(太郎次郎社エディタス) |
■ 馬込文学マラソン:
・ 関口良雄の『昔日の客』を読む→
・ 尾﨑士郎の『空想部落』を読む→
・ 川口松太郎の『日蓮』を読む→
■ 参考文献:
●『古本屋奇人伝』(青木正美 東京堂出版 平成5年発行)P.138-141 ●『大田文学地図』(染谷孝哉 蒼海出版 昭和46年発行)P.64-65 ●『昔日の客』(関口良雄 三茶書房 昭和53年発行)P.30-34、P.183-189 ●『関口良雄さんを憶う(復刻版)』(編集人:尾崎一雄 夏葉社 平成23年発行)P.56-58、P.70-71 ●『評伝 尾﨑士郎』(都築久義 ブラザー出版 昭和46年発行)P.331-335 ●「占領下の民主主義/飢餓にさらされて/闇市」(岡田孝一、川城三千雄)※『大田区史(下)』(東京都大田区 平成8年発行)P.672-675 ●『埴原一亟創作集』(文芸復興社 昭和43年発行)P.5-27 ●「埴原一亟没後15年追悼小特集」※「わが町あれこれ(4号)」(あれこれ社 平成6年発行)P.2-9 ●「新宿でしか手に入らない「歌舞伎町文学」がヤバい! 本の既成概念を打ち砕く『ヴァイナル文學選書』の理念を制作陣に聞く!」(前編)(TOCANA→)
※当ページの最終修正年月日
2024.4.25