{column0}


(C) Designroom RUNE
総計- 本日- 昨日-

{column0}

人から人から人へ(堺利彦、有島武郎、有島生馬、高見順、日本近代文学館へと渡っていった幸徳秋水の『資本論』)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上段左から幸徳秋水堺 利彦有島武郎。下段右から有島生馬高見 順日本近代文学館 ※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典 :志賀直哉(新潮日本文学アルバム)』、『昭和文学アルバム(1)(新潮日本文学アルバム)』


昭和38年5月12日(1963年。 づけの高見 順(56歳)の日記に、次の一節があります。

・・・武郎氏遺品のうち、武郎氏の読んだ英訳資本論(幸徳の本で、のちに堺 利彦が持っていたもの)・・・

「武郎氏」は有島武郎で、「幸徳」は幸徳秋水です。日本近代文学館の設立準備を進めていた高見が、有島武郎の遺品を寄贈してもいいという武郎の弟の有島生馬を訪ね、武郎が大切にしていた英訳『資本論』を譲り受けた時のことです。武郎は自死する前、蔵書をほとんど処分したようですが、この本は処分し得なかったようです。

この英訳『資本論』は、元は幸徳が持っていましたが大逆事件で殺される少し前にお金に困って手放し、それを古本屋で見つけた福田狂二コトバンク→幸徳の親友・に譲りました。そして社会主義に理解のある有島武郎が譲ったようです。『資本論』を持っているだけでも監獄にぶち込まれかねなかった暗い時代に、この一冊は、幸徳秋水堺 利彦有島武郎とリレーされ、戦後さらに、有島生馬高見日本近代文学館へとリレーされたのですね。

この「奇跡のリレー」を見つけたのがノンフィクション作家の黒岩比佐子さんコトバンク→です。黒岩さんは膵臓がんからくる体調不良と闘いながら、そのことを『パンとペン』(講談社 Amazon)に書きこみます。そして、「奇跡のリレー」を読者に確かに伝え、本が発行された1ヶ月と10日後、帰らぬ人となりました。

左から志賀直哉、室生犀星、梅原龍三郎 ※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典 :近代日本人の肖像/志賀直哉(国立国会図書館)→、『馬込文士村ガイドブック(改訂版)』(編集・発行:東京都大田区立郷土博物館 平成元年発行)、「アサヒグラフ」(朝日新聞社 昭和27年11月12日号)

左から志賀直哉室生犀星梅原龍三郎 ※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典 :近代日本人の肖像/志賀直哉(国立国会図書館)→、『馬込文士村ガイドブック(改訂版)』(編集・発行:東京都大田区立郷土博物館 平成元年発行)、「アサヒグラフ」(朝日新聞社 昭和27年11月12日号)

昭和25年、室生犀星(60歳)が、軽井沢の別荘(長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢979-3 Map→)で、日記に、

・・・梅原龍三郎から椅子を取りに来たので、進呈した。この椅子は籐椅子でシンガポールあたりの製品らしく、志賀直哉からもらったものだが、大きく立派である。しかし腰をおろすことがないので、梅原に兄弟の椅子があり梅原のところで兄弟揃へてもらった方がよい、この間その話をしておいたので取りに見えたのである。・・・(8月1日づけ)

と書いています。犀星は、軽井沢では、白樺派の人たちとも親しくしたのですね。

左から森 鴎外、片山広子、夏目漱石 ※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典:『大正文学アルバム(新潮日本文学アルバム)』、『孤高の歌人 片山広子』(短歌新聞社)
左から森 鴎外片山広子夏目漱石 ※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典:『大正文学アルバム(新潮日本文学アルバム)』、『孤高の歌人 片山広子』(短歌新聞社)

中島という医者が住んだ東京千駄木の木造平屋(東京都文京区向丘むこうがおか 二丁目20-7 Map→)は、明治23年から2年ほど森 鴎外(28歳頃から)が住み、その後、どういった経緯からか、新婚ホヤホヤの片山広子が夫と明治32年頃から住んでいます。その後、歴史学者の斎藤 阿具あぐ (後に第一高等学校で芥川龍之介久米正雄山本有三らを教えた)が住んで、斎藤がドイツ・オランダに留学すると代わりに英国から帰国した斎藤の友人の夏目漱石が明治36年から明治39年までの3年間住みました。漱石が小説家として出発した家で、『我輩は猫である』Amazon→を執筆したことからこの家は「猫の家」と呼ばれています。片山は同じ家を「ぺんぺん草の家」と呼んでいました。現在、「明治村」(愛知県犬山市字内山1 Map→ Site→)に保存されているとのこと。こんなにも文学的に濃〜い家はそうないでしょうね?

左から伊庭八郎、伊庭想太郎、佐藤鉄太郎 ※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典 :「伊庭八郎」(市立函館博物館蔵)(みなみ北海道 最後の武士達の物語→)、「20世紀2001大事件」(毎日新聞社)
左から伊庭八郎、伊庭想太郎、佐藤鉄太郎 ※「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典 :「伊庭八郎」(市立函館博物館蔵)(みなみ北海道 最後の武士達の物語→)、「20世紀2001大事件」(毎日新聞社)

柴田錬三郎の短編『心形刀しんぎょうとうAmazon→は、江戸の名工・山浦清麿が作った「清麿刀」の数奇の運命をたどった作品です。伊庭八郎の手に渡ったあと、作者の清麿は翌年切腹、八郎はその刀で戊辰戦争に参戦、 箱根三枚橋で8人斬って自らの左腕(左手首?)を失います。片腕の剣士として名を馳せ、函館戦争でも活躍しましたが(丹下左膳のモデルとも)、 木古内 きこない の戦いで喉に被弾して死去。「清麿刀」はその後、伊庭家の末弟・伊庭想太郎(心形流10代目。東京農学校初代校長)に受け継がれますが、想太郎(49歳)は、その刀で、東京市会議所で前・逓信大臣の 星 亨ほし・とおる (51歳)を殺害(明治34年6月21日)。想太郎を取り調べた検事を通して「清麿刀」は想太郎の弟子の海軍中佐・佐藤鉄太郎に託され、佐藤は日本海海戦(明治38年5月27日)にも携えます。すると、バルチック艦隊の沈みゆく旗艦スワロフの速射砲の一発が甲板に突き立てた「清麿刀」に命中、粉々に砕けたとのこと。史実が交えてあるので信じてしまいそうですが、あまりにもよく出来た話では? 著者の柴田は自作を「花も実もある絵空事」としているので、柴田の小説を歴史小説として読むのはやめた方がいいかもしれません。

左から「第七天国」の一場面、淀川長治、永 六輔、坂本 九 ※「パブリックドメインの映画(根拠→)」「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典:「暮らしの知恵」(第1巻第4号 昭和36年)(学習研究社)、「婦人生活」(昭和41年2月号)(婦人生活社)ほか
左から「第七天国」の一場面、淀川長治、永 六輔、坂本 九 ※「パブリックドメインの映画(根拠→)」「パブリックドメインの写真(根拠→)」を使用 出典:「暮らしの知恵」(第1巻第4号 昭和36年)(学習研究社)、「婦人生活」(昭和41年2月号)(婦人生活社)ほか

坂本 九が歌って大ヒットした「上を向いて歩こう」(「SUKIYAKI」の名で全米ランキングの第1位にもなった YouTube→)は、第1回アカデミー賞(監督賞、主演女優賞、脚色賞)を受賞した「第七天国」(昭和2年公開)の中の「上を向いて」というセリフに由来します。この映画のことを淀川長治から聞いて感銘を受けた永 六輔が「上を向いて歩こう」を作詞。淀川がセリフをキャッチし、それを永が受け取り、坂本が世界に伝えたのですね。

クラシック音楽の世界では“名器”と呼ばれる楽器が何百年と受け継がれています。人気チェリストの宮田 大さんが平成26年頃まで使用していたチェロは、江戸時代の延享3年(1746年)に製作されたもの。前には齋藤秀雄(チェリスト・指揮者としても活躍。宮沢賢治の『セロ弾きのゴーシュ』の管弦楽団の楽長のモデルとの説あり)が使用していたもので彼の弟子筋に貸与され続けているようです。

佐藤 剛『上を向いて歩こう 〜奇跡の歌をめぐるノンフィクション〜(小学館文庫)』。今もなお世界中で親しまれる「上を向いて歩こう」(「SUKIYAKI」)の謎に迫る 「第七天国」。監督:フランク・ボーゼイギ、主演:ジャネット・ゲイナー、チャールズ・ファレル。貧しくとも彼の住む下宿屋の7階は、天に近い「第七天国」
佐藤 剛『上を向いて歩こう 〜奇跡の歌をめぐるノンフィクション〜(小学館文庫)』。今もなお世界中で親しまれる「上を向いて歩こう」(「SUKIYAKI」)の謎に迫る 「第七天国」。監督:フランク・ボーゼイギ、主演:ジャネット・ゲイナー、チャールズ・ファレル。貧しくとも彼の住む下宿屋の7階は、天に近い「第七天国」
中野 雄(たけし) 『ストラディヴァリとグァルネリ 〜ヴァイオリン千年の夢〜 (文春新書)』。1挺数億円の名器とそこらで売っている普及品の違いとは? 太田忠司『遺品博物館 』(東京創元社)。故人の人生が投影された遺品の数々。「寄木細工の箱」や「ビニール傘」は、残された者に何をもたらすのか
中野 たけし 『ストラディヴァリとグァルネリ 〜ヴァイオリン千年の夢〜 (文春新書)』。1挺数億円の名器とそこらで売っている普及品の違いとは? 太田忠司『遺品博物館 』(東京創元社)。故人の人生が投影された遺品の数々。「寄木細工の箱」や「ビニール傘」は、残された者に何をもたらすのか

■ 馬込文学マラソン:
高見 順の『死の淵より』を読む→
室生犀星の『黒髪の書』を読む→
志賀直哉の『暗夜行路』を読む→
片山広子の『翡翠』を読む→

■ 参考文献:
●『パンとペン 〜社会主義者・堺 利彦と「売文社」の闘い〜』 )(黒岩比佐子 講談社 平成22年発行)P.401-404、P.417-418 ●『高見 順(人と作品)』(石光 葆 清水書院 昭和44年初版発行 昭和46年2刷参照)P.107-117 ●『室生犀星全集 別巻一』(新潮社 昭和41年発行)P.314-315 ●『片山広子 ~孤高の歌人~』(清部千鶴子 短歌新聞社 平成9年初版発行 平成12年発行3刷参照)P.17-18 ●『東京路上細見(1)』(林 順信 平凡社 昭和62年初版発行 同年発行2刷参照)P.140-144 ●「上を向いて・・・・」※『すてきなあなたへ(六巻)』(暮しの手帖社 平成26年発行)に収録 ●「書く人/『遺品博物館』(作家 太田忠司さん)」(谷口大河)※「東京新聞(朝刊)」(令和2年9月5日)に掲載 ●「文庫化された秀作(3冊の本棚)」(栗原裕一郎)※「東京新聞(朝刊)」(平成28年5月15日)に掲載 ●「さらなる飛翔を遂げ、新たなる境地へ! 宮田 大/チェロ一會集」TOWER RECORDS ONLINE→

※当ページの最終修正年月日
2023.5.12

この頁の頭に戻る