{column0}


(C) Designroom RUNE
総計- 本日- 昨日-

{column0}

あっぱれな好色文学(明治45年2月21日、与謝野晶子が『源氏物語』の初の現代語訳を出す)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

源氏物語の一場面(絵:土佐 光起 みつおき 若紫わかむらさき (10歳前後)の姿をのぞき見る光源氏(18歳)。まさに「垣間見かいまみ」(隙見すきみ )。当時は貴重な情報収集方法だった? ※「パブリックドメインの絵画(根拠→)」を使用 出典:ウィキペディア/源氏物語(平成31年2月4日更新版)→

与謝野晶子

明治45年2月21日(1912年。 源氏物語の初の現代語訳『新訳源氏物語』(以下『新訳』)が、 金尾文淵堂かなおぶんえんどう から発行されました(江戸時代にも俗語訳があったが解釈に問題が多いようだ)。訳したのは与謝野晶子(33歳)。与謝野は12歳頃から『源氏物語』に親しんでいたようです。

『新訳源氏物語』の執筆と同時進行で源氏物語の詳細な解説『源氏物語講義』(40巻ほどになる予定だった)を100ヶ月で書き上げるべく依頼主に月々原稿を送っていましたが、一万枚近くにもなっていたとされる出版前の原稿を関東大震災で焼失します。源氏物語全文の現代語訳が含まれていたとされ、与謝野の2回目の現代語訳ともされますが、そんな訳で現在は読むことができません。

また、与謝野は、最初の『新訳』が抄訳で、解釈も十分でなかったことを20年来恥じ、昭和13年(59歳)、同じく金尾文淵堂から『新新訳源氏物語』(以下『新新訳』)を発行、6巻で完結させます。しかし、同時期に谷崎潤一郎が『谷崎潤一郎訳源氏物語』(谷崎も源氏物語を3回現代語訳している。総称して以下『谷崎源氏』)を大出の中央公論社から出し大々的に宣伝したため、『新新訳』は影の薄いものとなりました。『谷崎源氏』は、『新訳』が抄訳なので全訳を目指したもので、『新新訳』が出ることが分かっていたら書かれなかったかもしれません。『新新訳』完成後『新訳』の方は絶版となりましたが、源氏物語に接するにはお手頃な分量なためか、平成13年角川書店が発行したのは 『新訳』の方です。●『新新訳』全文(古典総合研究所/現代語訳の研究/角川文庫 全訳源氏物語(与謝野晶子訳)→)●国文学資料館/電子資料館/与謝野晶子自筆原稿『新新訳源氏物語』/桐壺→

谷崎潤一郎 折口信夫 折口信夫

源氏物語は、谷崎潤一郎の後も円地文子、田辺聖子、瀬戸内寂聴らによって現代語訳されています。 9人の作家(江國香織、角田光代、町田 康、金原ひとみ、島田雅彦、桐野夏生、小池昌代、日和聡子、松浦理英子)が順番に書いた 『ナイン・ストーリーズ・オブ・ゲンジ』Amazon→というのもあり。吉屋信子は、祖母が3人の孫娘に源氏物語を聞かせる形の小説を書いていますAmazon→川端康成は、『谷崎源氏』に不満があり自ら取り組み始めましたが、執筆には至りませんでした(『谷崎源氏』への赤入れは始めていた)。川端はノーベル文学賞受賞記念の講演で、「「源氏物語」は古今を通じて、日本の最高の小説で、現代にもこれに及ぶ小説はまだなく、十世紀に、このように近代的でもある長篇小説が書かれたのは、世界の奇跡」とまで言っています折口信夫は、大正13年(36歳)から没年(昭和28年66歳)まで源氏物語を講じ、大正14年の慶応大学での講義には堀 辰雄(30歳)も毎週通ったとか。近藤富枝も源氏物語関係の本を多数出しています。秦 豊吉は源氏物語は光源氏が 几帳 きちょう (薄絹を下げた部屋の仕切り)の陰で女性と夜を明かしたならば、そこでは必ずやセックスしたとイメージすべきと主張。でないと、綺麗ごとになって物語が生き生きしてこないと。源氏物語の本質は 春本 しゅんぼん (エロ本)なんだと!?

大正10年よりアーサー・ウェイリー(32歳〜)が源氏物語を英訳。ドナルド・キーンはそれを読んで日本文学に興味を持ったそうです。

紫式部
紫式部

この、人を惹き付けてやまない『源氏物語』とは、どんな小説なのでしょう?

天元元年(978年。平安時代中期。異説あり)に生まれたとされる紫 式部が、夫の藤原 宣孝のぶたか と死別したあとに書き始めたもので、3部54帖からなります(異説あり)。登場人物は400名を越えます。当時より京都御所の内外で評判となり、紫 式部は時の権力者・藤原道長に召され、その娘で一条天皇の 中宮ちゅうぐう(天皇の第一の妻)の 彰子しょうし の付き人になりました。

第1部(33帖まで)は、天皇( 桐壺帝きりつぼてい )の第二皇子の光源氏が栄華を極めるまでの紆余曲折が描かれます。「光源氏」という名は通称で、幼い頃から抜きん出た美貌と多種多様な才能(武芸、学問、文学、音楽、舞楽、絵画など)を発揮し、まるで光り輝くようだったので「光」が冠せられています。光源氏はたくさんの女性と契りを結んでいきますが、対象になる女性の多様なことといったら・・・。

光源氏が最初に(?)契る相手の 藤壷ふじつぼ は、なんと父(桐壺帝)の 女御にょうご (中くらいの位の妻)であり、光源氏からすると義母です。そしてできた子どもが、 桐壺帝きりつぼていの次の次の天皇(冷泉帝れいぜいてい )になります。光源氏の母の桐壺は、桐壺帝から寵愛されながらも、妻としての身分が低かったこともあって、身分の高い妻たちから虐め抜かれて光源氏が3歳のときに死んでしまいます。美しくも悲劇的な母・桐壺の面影を、光源氏は義母・藤壷にも、また、幼い若紫(この頁のタイトル部の絵画を参照)にも見て、心惹かれていきます。同時に懸想する空蝉うつせみは小柄で地味な女性ですがその風情に光源氏は惹かれ(光源氏を避けるために薄衣一枚置いて逃げるので空蝉)、夕顔は、頭中将とうのちゅうじょう (光源氏の義兄。友でありライバル)の側室ですが本妻からの嫉妬を恐れて夕顔の咲く市井に隠れ住んでいた人。光源氏が懸想する女性は、少女から年増まで、また美醜、身分の上下を問わず幅があります。

そもそも光源氏には、 東宮 とうぐう (皇太子)の妻になる予定だった 葵上 あおいのうえ という正妻(左大臣の娘)がいました(左大臣の思惑で12歳で元服した光源氏と結婚させられる)。4歳年上の葵上は光源氏に対し心を閉ざしています。他にも、末摘花すえつむはな六条御息所ろくじょうのみやすどころ といった女性が続々と出てきます。「マザーコンプレックス」「近親相姦」「ロリータコンプレックス」「冷めた結婚(政略結婚、打算結婚)」「嫉妬」といった現代にも通じる「愛や欲望のテーマ」が散りばめられています。

「世界の奇跡」でもあり、「春本」でもあるというのなら、その謎を垣間見るためにも、54帖の森に足を踏み入らないわけにはいきませんね?

『与謝野晶子の源氏物語〈上〉 〜光源氏の栄華〜 (角川ソフィア文庫)』。序文:上田 敏、序文:森 林太郎(森 鴎外)、挿画:梶田半古(かじた・はんこ) (明治3年-大正6年。小林古径の師)。半古による「光源氏と彼あての手紙を読む頭中将」→ 同じく「雀の子を逃して泣く若紫」→ 『源氏物語(一) 桐壺〜末摘花 (岩波文庫) 』。『新日本古典文学大系』(岩波書店)の原文に考証を加え注解と補訳が付されている。紫式部の筆による原本は失われており、多数存在する写本(藤原定家が作成した「青表紙本」など)をどう校合したかが問われる
与謝野晶子の源氏物語〈上〉 〜光源氏の栄華〜 (角川ソフィア文庫)』。序文:上田 敏、序文:森 林太郎(森 鴎外)、挿画:梶田半古かじた・はんこ (明治3年-大正6年。小林古径の師)。半古による「光源氏と彼あての手紙を読む頭中将」→ 同じく「雀の子を逃して泣く若紫」→ 『源氏物語(一) 桐壺〜末摘花 (岩波文庫) 』。『新日本古典文学大系』(岩波書店)の原文に考証を加え注解と補訳が付されている。紫式部の筆による原本は失われており、多数存在する写本(藤原定家が編纂した最古の写本「青表紙本」など)をどう 校合きょうごう したかが問われる
出口 汪 ( ひろし ) 『源氏物語が面白いほどわかる本 ~日本が誇るラブロマンがマンガより楽しく読める~』(中経出版)。あらすじ、年表、登場人物の関係図、地図など。少年と少女が感想を述べながら疑問を出し、それに答える形で、分かりやすい 田誠広『源氏物語を反体制文学として読んでみる (集英社新書)』。紫式部は、あえて、藤原氏を中心とした摂関政治に「源氏」を投入!?
出口 ひろし 『源氏物語が面白いほどわかる本 ~日本が誇るラブロマンがマンガより楽しく読める~』(中経出版)。あらすじ、年表、登場人物の関係図、地図など。少年と少女が感想を述べながら疑問を出し、それに答える形で、分かりやすい 三田誠広『源氏物語を反体制文学として読んでみる (集英社新書)』。紫式部は、あえて、藤原氏を中心とした摂関政治に「源氏」を投入!?

■ 馬込文学マラソン:
瀬戸内晴美の『美は乱調にあり』を読む→
川端康成の『雪国』を読む→
堀 辰雄の『聖家族』を読む→
近藤富枝の『馬込文学地図』を読む→
三島由紀夫の『豊饒の海』を読む→

■ 参考文献:
●「サイデンステッカー、キーン両氏が回想録 三島川端の秘話明かす」 ※「朝日新聞」(平成17年2月8日掲載) ●『美しい日本の私(角川ソフィア文庫)』(川端康成 平成27年発行)P.25-26 ●『折口信夫(新潮日本文学アルバム)』(昭和60年発行)P.46、P.106 ●『堀 辰雄(人と文学シリーズ)』(学研 昭和55年発行)P.233 ●「紫式部」(秋山 虔)※『新潮 日本文学小事典』(昭和43年初版発行 昭和51年発行6刷参照)P.1134-1138 ●『丸木佐土随筆』(東京文庫 昭和27年発行)P.9-11 ●『源氏物語が面白いほどわかる本』出口 ひろし  中経出版 平成13年初版発行 平成15年10刷参照)P.25、P.54、P.61、P.87-92 ●「源氏物語 最古の写本 定家編さん 青表紙本の「若紫」」(「東京新聞(朝刊)」令和元年10月9日掲載) ●「『新新訳源氏物語』あとがき」(与謝野晶子)青空文庫→

※当ページの最終修正年月日
2023.2.21

この頁の頭に戻る