GLIDER

臭覚は 削剥 さくはく した、全く、
気流の階段に機翼をひろげ、
僕に 肉冠 とさか の神経が露出する。

セーブルの雲を切断し、
一六、〇〇〇 キログラム の空気の重さに耐え、
空間に点描する位置の観念。

僕の体重は力学、正しい定理、
風圧の平桁を静かに保ち、
心臓はシリンダーよりも平調。

傾斜する、僕は暗い煙のやうに、
冷ゆる気層で歯痛がめざめる、
V字型の落下──真空帯。

新しい気流に方向を捜す、
速力の下方で伸び縮む畠の格子縞、
屈折する川の真青なネオン管。

機体はああ浮力を忘れる、……遂に、
地殻のはげしい上昇……胃液が滲む、
紫外線がまぶしい、僕は着陸の姿勢にうつる。

 

※「セーブルの雲」はセーブル(ブランド名)の陶器のような艶やかな雲でしょうか。「平桁(ひらげた)」は、「平衡」 の誤記でしょう。*