|
||||||||||||||||||||||||
|
||||||||||||||||||||||||
|
川端龍子の「海を制するもの」(全体図→ 部分1→ 部分2→) ※「パブリックドメインの絵画(根拠→)」を使用 出典:「川端龍子(現代日本の美術13)」(集英社 昭和51年発行) 昭和11年6月14日(1936年。
文部大臣秘書が川端 龍子は3年前(昭和8年)より「太平洋連作」を手がけ、その一「龍巻」、その二「波切不動」、その三「 写生許可がおりて、龍子は川崎造船所に4日ほど通ってスケッチし、8月の第7回青龍社展に間に合わせています。画面の横サイズが4m56cmもある大画面です。龍子は相当な速描きですね。題名は「海洋を制するもの」。10日後に進水予定の潜水艦の製造現場で、最後の追込みに汗を流す3人の人物を描いています。5ヶ月前(昭和11年1月15日)、日本はロンドン軍縮会議を脱退、軍拡に邁進するようになっていました。国策に呼応して描かれた一種の「戦争画」といえるでしょうか。 ・・・造船台は満員の盛況である。工場の活気は 7月の真昼の陽光と、耳を打つ電気ハンマーでの鋲打ちの大音響。龍子はその熱気を、バーナーの火で表しています。鋲打ちしている人物は、まるでバーナーの火を背負っているようです(上図参照)。鬼のような形相で仕事に熱中しています。満州事変前後から始まる日本軍部のアジア征服の野望など知るよしもない庶民は、ひたすらに日本の「正義」を信じていたのでしょうね(真実を伝えなかったマスコミの責任)。 この作品は、近代日本画で労働現場を題材にした初めての大作とのこと。当地の「川端龍子記念館」(東京都大田区中央四丁目2-1 Map→ Site→)が所蔵しており、時々展示されます。 龍子の場合は、国策に共感し、国策に協力する形で制作しましたが、間宮茂輔の場合は、逆に、当局からの監視の目をかい潜るようにして、労働現場を描いています。 当時は「労働者は当局の命令にしたがっておればいいのだ」という時代で(今もそうだったりして?)、労働者が自らの権利を主張すれば弾圧されました。間宮は、非合法下の日本共産党とつながりがあった労働組合連合組織「全協」の東京支部で働いていたため検挙され、昭和8年から昭和11年までの約3年間下獄。運動からの離脱を誓わされて(転向して)出獄した年の翌年(昭和11年)、『あらがね』という鉱山を舞台にした小説を書きました。 間宮は慶應大学仏文科を中退し、株屋、鉱山、灯台、出版社と労働現場を巡り、そこでの体験をもとに、のちに生産文学といわれるカテゴリーの先駆的な作品を書きました。『あらがね』は、天竜川上流の ・・・シャツ一枚の増山係長が受話器を握ると、
入り口から70m(1尺は約30センチでその230倍)のところで坑道が崩落したとの連絡が入る場面です。このような一節も、現場を知らない人が書くのは難しいでしょう。 間宮の鉱山の現場体験は3年弱でした。第一次世界大戦後の恐慌で、多くの鉱夫が解雇され山を追われました。都合よく使い、都合よくお払い箱にする会社の姿勢に疑問をもった間宮は、会社を批判するパンフレットを作成し、鉱夫の長屋に社員宅にばらまきました。すぐに間宮がやったと分かり、鉱山にいられなくなったのです。 当地(東京都大田区)には、51年間、当地の町工場で旋盤工をしながらペンをとった稀有な労働者作家・小関智弘氏が住んでいらっしゃいます。氏の作品には現場の様々な現実が描かれていますが、現場への深い愛着・愛情がこもっています。 ・・・電力制限がやかましくて、節電にもなる明窓だったが、少年の茂木は、暗い天井にくっきりと光の扉をあけたようなその明窓が好きだった。ふと見あげると、そこに眼を休ませる色があった。雨や雪や、月や星も見た。よく晴れた日に、その窓明を額縁にして白いチョークでいたずら書きをしてゆくのは、朝鮮戦争いらい飛来のひんぱんになった米軍機だった。・・・(小関智弘『錆色の町』より) 実際見たことを元に書くことにこだわった間宮が、戦後になって、『 多喜二も蟹工船の現場を体験した訳ではありません。「思想的な強さ」と「激烈な文学的情熱」があれば、調べたことと、聞いたことだけでもあれだけのものが書けることに感服した62歳の間宮は、『鯨加船』のペンをとりました。多喜二が『蟹工船』を書いたのは25歳の時です。 ・・・曲り角で、急にまがれず、よろめいて、手すりにつかまった。サロン・デッキ で修繕をしていた大工が背のびをして、漁夫の走って行った方を見た。寒風の吹きさらしで、涙が出て、初め、よく見えなかった。大工は横を向いて勢いよく「つかみ鼻」をかんだ。鼻汁が風にあふられて、歪んだ線を描いて飛んだ。 非人間的扱いを受ける労働者との熱い連帯意識と、こき使う側に対する激烈な反発心とが多喜二のペンを走らせるのでしょう。
■ 馬込文学マラソン: ■ 参考文献: ※当ページの最終修正年月日 |